『天冥の標 I』メニー・メニー・シープ 上・下
文字数 1,247文字
『天冥の標 I』メニー・メニー・シープ 上・下
/ 小川一水
二十六世紀初頭、人類の大型植民宇宙船シェパード号は、地球から遠く離れた恒星系Herβの第三惑星(ハーブC)に到着した。
しかし、五十年を超える長旅はその最終段階で何らかの事故が起き、シェパード号はハーブCに墜落、地中深くめり込んでしまったのだという。
辛くも墜落時脱出に成功した乗組員たちは、まだ動いているシェパード号のエンジンから電気エネルギーを地上へ導き、どうにか地上で生活を始める。
恒星間航行をしたテクノロジーとコンピュータのデータのほぼ全てを失い、わずかに残された電力と、移民船で同時につれてこられた多くの羊たちをタンパク源にして、なんとか、この地でかろうじて生き延び、そして、約三百年の時が経った。
というあたりの、植民地、住民からはメニー・メニー・シープと呼ばれる、とある惑星上で物語が始まります。
植民惑星に墜落した宇宙船、それから三百年。という読者のイメージそのままに、ページの中にはたいへんのどかなヨーロッパあたりの雰囲気の田舎の風景が広がります。
丘の牧草地では草をはむ羊の群れが、坂の多い港町の漁港では腕っぷしの強い漁師たちが。ごくごく普通に平和な日常を謳歌して……いるように見えますが、そこはそれ、がっつりSFなのです。
漁師たちは宇宙での生活に耐えられるよう自らを人体改造。電気代謝能力を得て酸素呼吸を必要としない体を持ち、羊たちも遺伝的に生体内に何らかの電気回路を持っている。そんな世界で、人々なのです。
現代人にとっては異質ですが、住民にとってごく普通のことであるこれらの生体改造がなぜ行われたかの説明は(この段階ではまだ)ありません。読者はシェパード号の事故の件以外なにもわからない登場人物と同じ視点で、数々の謎と危機に立ち向かっていき、次第に植民地全体を巻き込んだ闘争と巨大な謎にぶち当たることになります。
いやー、ほんと、最初はのどかなんですよー。
それがどんどん加速していって、、え? えええ? えええええっ!? と、こんがらがりながら物語に取り込まれていく感覚はもうこのシリーズの卓越性といっていいとおもいます。
最初はね、これ、読んでてもよくわかんないんですよ、思いつきのアイデアや行き当たりばったりの展開に思えなくもないのです。でも、あとから振り返ると、ことごとく! これ全部計算づくだってことに気がついて鳥肌! なのです!
あああ、この先、ほんともうすごいんだから!!
10巻構成の壮大なSF大河ドラマの第一章!
騙されたと思って読んでみて!!w
「天冥の標」シリーズの第一巻です。十巻目のXを読んだあと、改めて読み直してみて、この構成力の素晴らしさにもう感服! 鳥肌でまくりでしたー。
いんやー、すんごいわー。
そして続けてIIも読んじゃう。ちょっと体力持たなそう!!??
※だいぶ前にも「らせんの本棚」で紹介した覚えがありますが、改めて再紹介です!