『アリスマ王の愛した魔物』

文字数 1,557文字

『アリスマ王の愛した魔物』 / 小川一水

類まれな数学能力を持って生まれ、あらゆるものを数え、森羅万象を計算しつくす夢にとりつかれた弱小王国の王子と、その王子に従じた計算のマモノの物語。が表題作の短編集。全5篇がはいっています。


表題作ももちろん面白かったのですが、まず最初に入っていた『ろーどそうるず』がすんごく良くて、バイク乗りのハートをいきなりわしづかみにされちゃいましたw


というわけで、表題作以外のお話を軽くまとめてみます。

『ろーどそうるず』

近未来的なオートバイ(750cc三気筒直噴ディーゼルエンジン)に搭載されている統合制御ユニット(JCU)と、メーカーのコンピュータとの通信ログという体裁で進行するお話。バイク側が外のリアルな空間で生きているのに対して、メーカー側のコンピュータはバーチャルな世界しか知らないという設定がすごく良いのです。バイク側のセンサーが「感じている」世界の描写と、賢いメーカーのコンピュータっていうバディ設定もすばらしくてなんというかもうツボを刺激されまくりw

バイクという無機物がきっとこう感じているだろうなあっていう乗り手の妄想が見事に文字になっていて、その点もまたグッド。そしてお話自体もとてもよく、めちゃくちゃぐっときてしまいました。オートバイ乗りでSF好きは絶対読んでほしいですねこれ!

『ゴールデンブレッド』

こちらは日本の心のふるさと、稲作を宇宙にもっていったお話ですね。最初、欧米人っぽい外見の人々がお米を作っていて、逆に日本人っぽい主人公が欧米的な考え方なのであれあれ? と思いましたが、まあ、そこが逆転しているからこそお話になっているのよね。という短編。小惑星帯で稲作をするシーンは笑っちゃうけどなかなか見事なのですw

『星のみなとのオペレーター』

これもとてもよかった!

平和な田舎小惑星の宇宙港の管制官。笑顔と(声だけど)心のこもったおもてなし以外は特に取り柄もなかった女の子が、不思議な三角コーンのようなロボット(?)をペットにして真面目に管制官のお仕事をこなしているうちに、いつの間にやら太陽系は存亡の危機に!? 平和からじんわりと危機の濃度が高まっていくグラデーションが良いです。

そしてまた、そんな大騒動に巻き込まれた主人公が世界の未来を左右することになるっていう漫画的なシチュエーションも、ファンタジックだけれどもよいかんじ。

こういうの大好物なのです。よいわー☆

『リグ・ライト――機械が愛する権利について――』

自動運転車を運転するロボットのお話。なのですが、なかなかどうして立派なAI小説。

AIの限界と、その限界を超えるAIについての考察的な部分がすごく良いです。

現状の自動運転車が抱えている法律的な問題がうまいことお話になっていて、そうよねえ、コンピュータの性能だけ進化しても、そこが何とかならないと実際問題レベル4やレベル5の自動運転って難しいような気も。

そして、そこらへんを追及していくことで本当の「知性」にたどり着けるのかもかも? なんていう気にもなってきます。

AIと哲学モノが好きな方におすすめの短編。

というわけで、長編に定評のある小川一水さんですが、短編もすばらしくおもしろかったーという本でした。どれもおすすめ~♪
(おまけのひとこと)

そういえば表題作の『アリスマ王の愛した魔物』についてあんまり書いてなかったですねー。

SFというよりはやっぱりファンタジー。ただまあ読み心地はやっぱSFかなー?(謎)

最初はよくある昔話的なネタ(毎日米粒を倍々にしていったらあっという間に天文学的な数字になって大富豪~っとかいうアレです)かと思っていたら、それどころじゃなくなんともすごいことになっちゃうお話なのでした。

Original Post:2018/07/25
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