『三体』
文字数 1,573文字
『三体』
/ 劉 慈欣 (著) / (翻訳)大森 望 , 光吉 さくら , ワン チャイ
いろんな方が大絶賛。話題の最新中華SFです。
中国のSFって、いままでケン・リュウさん(中国生まれアメリカ育ちのSF作家)の『紙の動物園』とかは読んでいましたが、ここまでがっつり書かれたものは初めてかも~。なんて思っていたら、なんと、この『三体』の英訳をしたのは誰あろうケン・リュウさん。そのうえその英訳版が、英語以外の言葉で書かれた翻訳本として、そして当然アジア人初のヒューゴー賞に輝いたのだとか。
さらにそれを前アメリカ大統領のオバマさんも任期中に絶賛していたとかとか。
前知識いれたくなくてあえて情報カットしていたら、そんなスゴイことがおきていたのですね。そりゃあ評判になるわけだわ……。
さて、本を開いてみたら第一部はいきなり近代中国最大の暗黒時代、文化大革命の嵐の真っただ中。
ご存じの通り、文革の名の下にそれまで人類が培ってきたあらゆる文化や思想、そして科学をすべて唾棄すべきものとして投げ捨て、政治と主義で塗り替えてしまった暴力の時代。すこしでも地位や名誉のある者は集団の狂気によって弾劾されていきます。
偉大な人物であればあるほど血祭りにあげられ叫弾裁判にかけられてしまうのです。
お話の中でも、立派な理論物理学者の大学教授が、科学の理念を否定しなかったがために断罪集会で文字通りなぶり殺しにされてしまいます。
それも、娘さんの目の前で…。
科学教育を受けた娘の前で、その父が科学を否定しなかったために、狂った民衆に殺される。
そのめちゃくちゃ重いシチュエーションが、本編の間も一貫して背景として描かれ、ずっしりと大きなテーマになっています。
舞台が現代に転じた第二部では、最先端の科学者たちを襲う、明らかに科学の根幹を揺るがす謎の事件の数々。そして謎の『三体』というVRゲームが登場します。このゲームの内容がなんとも不思議で、異世界での異質な物理学・自然科学の発見の歴史をバーチャル体験できる内容。しかしなぜここでバーチャルなゲームが? と、まったく全貌がわからないままに第三部へ突入。
第三部ではこの狂った科学の、驚愕の種明かしに進み、えええ!? そうだったの!? という驚天動地の超展開。でもだからこそ第一部、第二部があったのだと思いいたり、今までとも違った切り口でテーマが語られ、がっつりSFしてエンドマークにたどり着きます。
ここであらためて感じるのは、冒頭の文化大革命から40数年しか経ってないという驚きの事実です。あの人間の負の面が極大まで達した出来事をきっかけに、人類世界と物理学と、そして宇宙まである意味ひっくり返す物語となったのですから……。それだけインパクトを人類に与えた事件なんですよね……。
これ、いちおうエンドマークだけど終わって無くない!?
と思ったら、まだやっぱり続きがあって三部作なのだそうです。(この本も三部構成だったので、この一冊で終わりかと思ったけれどそうではなく、この三倍あるそう。三体だけに。(このあたりも数学的な構成なのかもしれませんね))
そうそう、翻訳が大森 望さんのほか、 光吉 さくらさん、ワン チャイさんと3名連名になっています。(それと監修にこれまたSF作家の立原 透耶さんも)早川が翻訳権を得る前に日本語訳を進められていた光吉 さくらさん、ワン チャイさんによる中国語からの和訳版と、ケン・リュウさんの英語訳とを下敷きにして、改めて大森 望さんががっつり訳したのが本書なのだそうです。
おかげで海外SFで読みなれたとても読みやすい文体でさくさく読めました♪
ここまで読んだら、やっぱ続きもこの文体で読みたいですね! 続き早くっ!!