『日の鳥』

文字数 702文字

『日の鳥』/こうの史代

「この世界の片隅に」の、こうの史代さんが描いた、東日本大震災の爪痕の風景。

妻を失った(らしい)雄鶏が、忘れてはならないのに少しづつ過去になっていく震災の記憶と、妻の想い出を重ねあわせ、淡々と復興の日常を語ります。

悲しいことは悲しく、うれしいことはうれしく。大切なことはそっと胸に抱いて、そして現実を見つめて今を生きる雄鶏の姿。


焼け跡からよみがえると言われる「火の鳥」と、日本の「日」をかけたタイトルはそういうわけだったのかしらん。とページをめくりながら、あの日と、それから今に続く日々に思いを馳せてしまいます。


復興の日常なので、特にストーリーと言ったものは無いのですが、日々を追う毎ページのやさしいタッチのイラスト(こうの史代さんならではのボールペンの絵がすばらしいです!)と、ほんわかした詩のような文章がけっこうぐっとくるのです。


ところで、原子力発電の中で何が起きていたのか、とってもミクロに、でも正確に知りたい方は、2巻のラストにある書下ろしの、まさかの原子核を擬人化した『小さな世界』は必読です。これ、原子物理学の教科書にそのままできてしまいそう……。めちゃくちゃわかりやすいですよ!!

(おまけのひとこと)

震災の記憶の本なのに、原発の中の原子核がどうしたとかを必読って不謹慎じゃない? なんて言われちゃうかも。。でも、原子(核)にとっての日常(何万年ってタイムスパンだったりするけれど)や核反応だって自然の法則の一部なわけで、復興の日々を淡々と(でも優しい視点で)描くこうの史代さんの姿勢は本編と変わることがないのです。すてき。
Original Post:2018/08/01
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