『白鳥異伝』

文字数 838文字

『白鳥異伝』/萩原規子
勾玉シリーズの二作め。
もともとはシリーズのつもりではなく、ヤマトタケルのお話を作っていたら、いつの間にか勾玉も出てきて重要な役回りを担ってしまったそうです。
そして、気がつけば前作「空色勾玉」と同じ世界と設定を共有していたのだとか。

おはなしは「空色勾玉」から200年ほどたった、前作の子孫たちの時代。
まだ神と人とは完全に分け隔てられてはおらず、ふつうに(といっても滅多になく、巫女のお告げや占いによって)交流していた、そんなころのお話です。
古事記や日本書紀でのヤマトタケルは、強い力とともに早死にしてしまう悲壮な運命をもって描かれています。しかし、筆者は常陸(ひたち)風土記の地名伝説に描かれるヤマトタケル(こちらは悲劇の主人公というよりは幸せそうなエピソードが多いのだとか)に惹かれ、力ではなく心のヤマトタケル伝説を描いてみたかったのだとか。

とは言っても、随所に出てくる古事記&日本書紀のタケル伝説を彷彿とさせるエピソードがけっこう悲劇を予感させて、読んでいて、ううー、だいじょうぶかなーなんておもっちゃったのも事実。でもちゃんとうまくストーリーの中に落とし込んでいるのは流石です。
伝説のなかに埋もれた史実なんて今やわかりっこないわけで、(なにしろほぼ神代の時代ですからね)なんとも現代風の姫さまもでてきてちょっとおもしろかったです。「わらわはおでぶにはなりとうない」とか言ったりしてねw
このあたりはリアリティ重視な方にはちょっとひっかかるところかもですけれど、さまざまな伝説を解釈しなおしたファンタジーと捉えれば何の問題もなく、それどころかとても読みやすい魅力になります。そうやって読み進めていくと、はるか伝説の時代の物語が身近に感じられて、神と人がともにあった豊葦原(とよあしはら)のまほろばに、常陸の国に想いを馳せさせてくれるのです。

空色勾玉とともに、日本の神代ファンタジーの名作です。おすすめ☆
Original Post : 2018/03/30

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