『仙境異聞・勝五郎再生記聞』

文字数 1,158文字

『仙境異聞・勝五郎再生記聞』

/平田篤胤 著 子安宣邦 校注

文政三年というからそろそろ江戸時代も後期に入るころ、浅草観音堂の前にふいに現れた少年寅吉。

彼は幼い頃、壺に入れられて山人(天狗)に連れ去られ、長い間天狗とともに生活・修行していたという。

「異界」からの奇跡の帰還者を迎えた江戸の町で少年は大評判になり、「流行り子」(有名人)に。

そんな彼のもとに、文化人・知識人はこぞって質問を投げかけにやってきます。


最初は半信半疑というかインチキを見破ってやろうという構えの知識人たちに対し、寅吉はどんな難問もすらすらと自信たっぷりに答え、連日の質問合戦の結果、だんだんと天狗の世界のすがたが浮かび上がってきます。


その質問サークルの先頭に立って、実は最も寅吉にぞっこんだったのはこの書をしたためた平田篤胤。もともと異界や幽界の研究をしていた江戸後期を代表する国学者で、天狗小僧寅吉の噂を耳にするやいなや、速攻で彼をひろった人の家から誘拐同然の勢いで連れてきて、以後、質問を浴びせつつ保護していたとのこと。

そんな篤胤たちの異界への好奇心や関心と呼応するように高度になっていく質問は、いつバレやしないかと(?)200年以上前の話なのにハラハラさせたりおもしろかったり。

そして、頭から信用してしまっている平田篤胤の書き方はなんというか愛情が感じられて暖かく、頼もしかったりします。(15歳の寅吉のご機嫌を取るのに目隠し遊びをしたりお菓子あげたりする国学者の姿が目に浮かびますw)


鎖国まっただ中だった当時の異国や異界への関心や、さすが学者さんが編纂しただけあって科学的整合性を求める姿勢、寅吉ら異質な人(異界人?)への愛情ある視線など、古い文章なので読みにくさはありますがそれを補って余りある知的面白さが凝縮された本です。


本の最後に収録されている『勝五郎再生記聞』は、生まれ変わりを体験した勝五郎さんの記録です。これまた異界ハンター(?)の平田篤胤のコレクションした異界情報で、なかなかに興味深いのでありました。

(おまけのひとこと)

これって、今でいえば、ファンタジー世界へ「行きて帰りし」した少年へ、そこでの出来事を、学者さんたちがよってたかって質問をして、その世界の概要を知ろうとするお話。なわけですよね。

江戸時代の知的好奇心がたっぷりつまっています。当時の科学力で異世界を攻略しようとしたリアルSFとも言えるかもしれません。

(なんだかコレ『ファンタジー世界構築のための質問リスト』に近い感じがして好感がもてたりw)

(もひとつオマケ)

国立国会図書館のデジタルコレクションでも『仙境異聞』読めるみたいですね。(G+のコメント情報)

最近、現代語訳も出たようです。そっちも読んでみたいわー♪

Original Post:2018/08/12
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