『天冥の標Ⅴ』 羊と猿と百掬の銀河

文字数 1,105文字

『天冥の標Ⅴ』 羊と猿と百掬の銀河/小川一水

個人的「天冥の標」再読キャンペーン開催中。で、ようやくその五です。

これはこれまた珍しい「農家SF」なのです。


時は西暦2349年、アステロイドベルトの汎天体動的共同体(パナストロ・コミュニティ)の主星、パラスの郊外地下で農場を営む農夫タック・ヴァンディが主人公。

彼の悩みのタネは、いつだって調子の悪い農場の環境調整マシンや作物の品質、年々厳しくなる市場、それに今年15歳になる農家の手伝いが嫌で嫌でたまらない愛娘などなど。

農家だけにそんなたくさんの悩みのタネも、つぎつぎ発芽してどんどん大きく育っていきます(汗

そんな彼が星外からやってきたある女性を助けるところから物語がスタート。

ちょっぴり不思議な印象のある女性と、何やら過去がありそうな男。そして脱走しがちな娘。

舞台となるのは低重力のアステロイドなので地球とは当然違う農場の造りや植物の育成環境システムなどのテクニカルな描写がとってもSFしててよいかんじ。そんな硬質な情報とともに奇妙な家族の物語が綴られていきます。


そして、そんな悩み多き農夫の家族の物語に平行してもう一つ。


天冥シリーズ全ての背後に存在する謎の存在、ダダーのノルルスカインの、はるかな過去からの物語も今回初めて語られます。

例のあの存在との馴れ初めも、6000万年前からつづく因縁もいよいよ明かされ、壮大な「天冥の標」の折り返し点として、ひたすら拡散・分散していた謎の全貌がようやく見えてきた、そんな大事なお話なのでした。


今までの天冥のストーリーとのつながりが良い感じにフックになっていて、初読時にはわからなかったあんなことやこんなことがだいぶ良く見えきて、ここにこの構成の話を持ってきた小川さんやっぱりすんごいなあとおもいましたです。まる。

(おまけのひとこと)

いつも無愛想に農作業をしているお父さんが、娘の危機に宇宙服を着て飛び出していく姿がなんとも素敵!

そんでもって、共に戦ってくれる〈酸素いらず〉(アンチ・オックス)のおじさんもめっちゃかっこいいのです。背中に長銃(コイルガン)を背負い、太陽風に伝統衣装のキルトスカートをなびかせて、オープンハッチの宇宙艇で飛んでいく姿。想像しておもわず「かっこいいー!」って口からでちゃいましたねw


そんな農夫さんサイドのお話が結構ハードな語り口なのに対して、ずっと大昔から続く壮大すぎるノルルスカイン側の話のほうは、スケールの割になんだかギャグっぽい語り口なのもよかったです。


個人的には「銀河ヒッチハイクガイド」のパロディも入っていてけっこう笑っちゃいました♪

Original Post: 2019/02/06
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