『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』

文字数 1,330文字

『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』

  / カート・ヴォネガット・ジュニア

この世界には二種類の人間しかいない。貧乏人か金持ちかだ。

そして、この二種類の人間は、お金を持っているかどうか以外になんの差もありはしない。

金持ちは単に運よくお金が流れる大河のふちで生まれたにすぎない。

もしもその河が見えたなら、なるべく、なりふりかまわず、とにかくその流れのぎりぎりそばに家を建てよう、そうすればあとは蛇口をひねればいくらでも金は出てくるのだ――。


と、いうかんじに、なかなか示唆に富んだお話。へたなビジネス系の成功指南書より、お金の法則についてわかりやすく書かれているかも??w


さて、舞台は、お金がすべてを支配する現代アメリカ。そこのスーパーリッチな大富豪ローズウォーター家に生まれたエリオット・ローズウォーターさんのお話です。

常に増え続ける、天文学的なローズウォーター家(財団)のお金。それを自由に扱える権力=財力を受け継いだ彼は、なんと! あろうことか、一文の価値もない、隣人愛なんていうものに目覚めてしまいます。

日々莫大な財産を惜しみなく貧乏人たちに分け与え、自分はと言えば飲んだくれて放浪したり、アメリカで一番貧相な街に住み着いてしまったりするのです。

可愛そうなのはパリ生まれの上流階級の奥さま。お金持ちと貧乏人の両方に心を配って押しつぶされて、とうとう神経衰弱に陥ってしまい、もうやってられませんわと離婚を決断するに至ります。

その離婚調停を請け負ったお抱えの弁護士事務所の若手が、ローズウォーター家の秘密資料をひっかきまわしている際、財団の基本定款に「役員が精神異常と判定された場合は即時除名される」との規定があることを発見。なんとかこの規定を使って財団のお金を自分の懐にいれてしまおうなんて画策をはじめちゃったからさあ大変。


こうして、アメリカの基準ではどう見てもキ印なローズウォーターさんを、狂人と認定したい派と、いやいや立派な聖人じゃないかと崇める(そしてやっぱりお金を恵んでもらいたい)派、判断できない精神科医、愛憎の末離婚したい奥様、仕方ないと考えつつも家の存続が大事な親父さま、などなど、その他もろもろのやたら沢山の登場人物が入り乱れ、混乱につぐ混乱。

カオスな状況の中、それでも超然と隣人愛を発揮し続ける酔っ払いの愛すべき大富豪の明日はどっちだ!?


原題はそのまま「God bless you, Mr.Rosewater」なんですが、日本語だと「お恵み」って言葉はお金を「恵んでもらう/あげる」と同じなんだなあ。なんてことも考えながら、お金と「恵み」について、いろいろと考えてしまうお話なのでした。

(おまけのひとこと)

さすがはカート・ヴォネガット・ジュニア。寓話的でもあり、シニカルでもあり、それでもやっぱり面白い。ここまで真っ向から「お金」について書かれたお話ってなかなか無い気がしますねー。


そうそう、この本にはじめてキルゴア・トラウトというSF作家が(お話の中に)登場します。カート・ヴォネガットのほかのお話にもちょこちょこ登場するキャラクターなんですけど、けっこう重要な役ででてきますよん♪

Original Post:2018/05/24
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