『東京の子』
文字数 1,240文字
すぐ目の前の近未来予測にちょー定評のある藤井太洋さんの新作『東京の子』です。
今回は東京オリンピックの直後のお話。
いま絶賛準備中のオリンピックが終わった後の東京が舞台です。
極度の少子高齢化でいなくなってしまった労働力の代替として移民を促進する方向に方針を転換した国の政策が功を奏してか、オリンピック後の施設の解体需要やら民間への払い下げやらで好景気にわいている日本。
それでも、この国のねじれた労働構造は解消せずに不可視化されて、物語の背景に漂っています。
なんてテーマをぶら下げながら、藤井さんがいつも上手いなあと思うのはそういう時代や世界を体現するような主人公の設定です。今回の主人公は元ユーチューバーでパルクールの使い手で、なぜか過去の名を捨て、いつでも居場所を変えられるよう家具を持たず、ひっそりと半分裏世界に生きる青年です。
このパルクールを持ち出してくるところがすごいですよねー。パルクールとは、フランス生まれの走る・跳ぶ・登るといった移動所作に重点を置いたスポーツ。忍者みたいな動きで壁を駆け上ったり飛び降りたりするアレです。
そうとう尖がった人しか知らないエクストリームスポーツを紹介しつつ、主人公の視点で切り取ったその時代の東京という舞台にいざなう藤井さんのクールな手腕に痺れちゃいます。
さてさて、今から数年後なのにだいぶ変わった東京に読者の意識が定着するころ、お話の舞台は、民間に払い下げられた元オリンピック会場に建設された巨大な学園施設に移ります。
そこは、学校という学びの場で、そのまま社会人としてのビジネスを体験できる――というか実際に仕事をする――、文字通り産学が連携した新しい学校なのでした。
この学校の設定も、「なるほど、インターンシップをそのまま拡大していったらこうなるよね~」的な想像と、「減ってしまった労働力を増やすには確かに良い方法かもしれないなあ」なんて、フムフムと感心しながら読んでいると、なにやらこのよくできた学校にもきな臭い疑惑が見え隠れします……。
最初に書いたテーマとその疑惑が結びつき、主人公の過去が明らかになった時、極近未来の東京の物語は、物理法則の最大効率を丁寧になぞったパルクールの移動所作のようなスムーズさで走り出します。
毎回感心する藤井太陽さんの未来予測図と、多国籍な人々が入り乱れる東京の風景。オリンピックの狂乱が始まる前にぜひ読んでおきたい一冊でした。
(おまけのひとこと)
↑の新システムの学校の創業者で校長さんは、元IT企業で財を成した人という設定。普通の人から見たら「こんな人いるわけないじゃなーい」っていわれそうな性格なんです。
そこにリアルを感じられるかどうかでもしかしたら人を選ぶかもしれませんw
が、
います。いるんです。ほんとに。こういう人。
まあ、何人かが混ざってる気がしますけど。そういえば「学校作りたい」って言ってた人がいた気が……。まさか、ね?w