『イノベーターズ』

文字数 2,752文字

『イノベーターズ』天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史

 / ウォルター・アイザックソン(著)、 井口 耕二(訳)

イノベーションという手垢のついた言葉が蔓延している今日このごろ。実際にイノベーションを起こしている人たちについて、個々個人やグループ、会社について個別に書かれた本はよくあるけれど、いったいどういう人達がイノベーションを起こすのか、どういう環境でそれが発生するのか。という全体像を、改めて、歴史に沿って書かれた本です。


著者のウォルター・アイザックソンさんは、あのベストセラー『スティーブ・ジョブズ』の著者の方。そのほかにもレオナルド・ダ・ヴィンチやアインシュタインの伝記も書かれています。そういう天才の伝記を書かせたら右に出るものがいないぐらいのスペシャリストさんなのですね。


その、ウォルター・アイザックソンさんが、時代を変えてきたイノベーターたちをどう書いたのか、とっても興味がありました。


冒頭、理系女子の元祖ともいうべき「ラブレス伯爵夫人エイダ」さんが堂々と第一章に登場。それから、コンピュータ、プログラミング、トランジスタなどの技術的イノベーションにつながり、最後にインターネットの登場まで語られるのが第一巻。第二巻ではパーソナルコンピュータ、ソフトウェア、ブログ、Google、ウィキ、そしてAIへ。テクノロジーの今とこれからについて語られます。


先ず第一巻。

尊敬すべき我らがエイダ様を巻頭に持ってくるところが良いですねー。

彼女は有名な文豪で芸術家の父を持ち(持ったにもかかわらず)、かのチャールズ・バベッジの未完成の機械式計算機、解析機関のために歴史上初めてコンピュータ・プログラムを作ったことで知られています。そう、人類初のプログラマは女性だったのですよ!

実際、バベッジ本人も想像さえしていなかった領域にまで彼女は思考を展開していたことが本書にはよく書かれています。バベッジは「数を計算」することがこの機械の目的で目標と考えていましたが、エイダは数が扱えるということは、数字に変換できるすべての事柄を扱える。つまり、論理を扱うことができる。文字、文学はもちろん、絵画や音楽などまで、あらゆるデータを扱えることを意味する!! と、現代のコンピュータのカタチを100年も前に正確に予見していたのです。


さらに、実際に(繰り返しますが未完成の)解析機関の上で動作する、無限級数、ベルヌーイ数の解法プログラムを作成しました。

その中ではいわゆるサブルーチンやループ、再帰構造まで組み込まれていたというから驚きです。


芸術を理解し数を愛する彼女は複雑な機械の中に「美」を見いだし、詩的にその世界を捉え、類まれな数学の才能を生かしてプログラムという文脈(コンテンツ)を生み出したのです。

無機物のハードウェアにソフトウェアという魂を吹き込む。まさに造物主のような行為。それが、現代に続くデジタル・イノベーションのたしかに第一歩だったのでした。


この、科学と芸術の間、文系と理系の交差点でイノベーションが生まれるという構図。どっかで聞いたことありますよね。そう、あのスティーブ・ジョブズの有名な言葉ですね。

その交点が、どのようにして形成されるのか、時と場所、そしてその場に登場する人物やグループ。

エイダをはじめ、(電話を発明した)ベルやアラン・ケイ、ジョブズなど、いわゆる天才という特異点に焦点が当たることはよくありますが、この本では、そんな彼らが居合わせた場所やグループの大切さが語られています。


ベル研究所やMITに代表される場所と、そこで出会う人と人のコラボレーション、それに、ちょうどよい「時代」という後押しがイノベーションには必要なようです。


第二巻ではソフトウェアやインターネットを中心にしてイノベーションが語られます。

いろんな発明をするのは個々人なんですけど、やっぱり先人のアイデアを拡張してうまく商売に結び付けたグループ(や会社、研究所)等がうまいこと時代を作り出してきたんだなーと言うことがよくわかります。今の情報化社会(って言い方ももう古い?)の基本構造はこうやってできてきたのですね。


ムーアの法則が語るようにイノベーションの歴史的トピックの時間的な間隔は倍々ゲームで狭まり、歴史はどんどん加速しているわけです。そんな加速している世界をなぞる、やっぱりこれは歴史書なんでしょう。歴史書にしてはだいぶ近代過ぎる気がしますけれども。

ともかくそんな、技術の歴史、イノベーションの歴史(や形)に興味のある方には、とてもとてもお勧めの本です。


二巻の最後には再びエイダさまが登場します。彼女の100年前の予言が叶った現代。果たしてそのままこの先の未来につながるのか。それとも本当に技術的特異点(シンギュラリティ)が起きるのか。起きつつあるのか。

もう少しこのビックウェーブを(だから古いw)見続けていこうとおもいます。

(おまけのひとこと)

興奮して書きまくっちゃいそうなところをなるべく抑えてレビューいたしました。(つもりです)

なんたってあの、エイダさまがほぼ主役(?)のイノベーションの本!! だなんてっ! 私の好みにばっちりな本なのですよッ!!

(けっこうエキセントリックでヤバい系の女性だったとも書かれておりますが(汗)まあそれでも偉業には曇りがないのです。たとえヤク中だったとしても!!(涙))


いやー、良い本でした。この【らせんの本棚 V 】の100冊目を飾るにふさわしい!

そういえば最初の【らせんの本棚 I 】の100冊目は同じくウォルター・アイザックソンさんの『スティーブ・ジョブズ』を取り上げたのでしたっけ。そのジョブズさんも、ゲイツさんも、アラン・ケイさんも……。コンピュータの歴史業界(?)の有名人が総出演する本。いやぁ、コーフンしちゃいますねえw


最期に、半分ネタバレになっちゃいますが、この本の最後にはこれからのイノベーションを起こす者についての想像が語られています。

その姿はエイダさまの志を継ぐ者であって、不肖ワタクシの目指す理想の姿が描かれておりました。ここのところワタクシゴトでさまざま忙しく、少々困難な状況だったりもしていたんですが、やっぱりこのやりかた、この方向で間違ってはいなかったのだわと、なんだか人生の指針を再確認できた気がいたしました。そんな意味でも私のなかでトピックになりえる本だったのであります。

2019年の最後(かな?)に、そして【らせんの本棚V】の最後にこんな素敵な本に巡り合えてよかったです。


来年もがんばりますよー。では、みなさま、よいお年をお迎えください。

2019年のクリスマス前日  ,,Ծ‸Ծ,,

Original Post:2019-12-24
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

神楽坂らせん

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色