『うつ病九段』
文字数 971文字
先崎学(せんざき・まなぶ)九段。
「先(せん)ちゃん」の愛称で知られる将棋のめちゃくちゃえらいひと。で、とっても強い人。
将棋のことはよくわからなかったりする私なのですが、漫画「3月のライオン」の解説でお名前はよく目にしていました。
そんな先ちゃん先生が、2017年、表舞台からひっそりと姿を消していたのだそうです。
なんと、「うつ病」を発症して。
なにしろ考えることが仕事のプロ棋士で、考えに考え抜いて常に最高の次の手を決める戦いを繰り広げていた人が、突然なにも決められない、頭を使うことそのものが辛くてしかたがないという「うつ」を患ってしまいます。
なんてふうに、他人が文字で書くとたいしたことのないように思えますが……、本当にほんとうに辛い状況なのだそう。とにかく何を考えても考えの先は「死ぬこと」に繋がり、生きることそれ自体がもう困難を極めるという、重度の「うつ」。
将棋をさすのはもちろん、人と会うことや朝起きあがることも辛すぎてできなくなり、とうとう周囲と医師の強いすすめで入院することに。
そして、今度は将棋ではなく、「うつ」という病気と戦うことになります。
その戦いの日々を、当事者の目から赤裸々に描いたのがこの本なわけです。
元々文章も上手い方ですし、思考のプロフェッショナルが、そもそも思考することがうまくできない。ということを、血の滲むような思いをしながら書き綴っています。
誰よりも将棋が強いことがアンデンティティであったプロ棋士が小学生より弱くなってしまったという事実をうけとめて、その明日さえみえない長いどん底から、ゆっくりとでも立ち上がっていく姿は、なんていうかもう壮絶。
他人の目から見て想像で書くのではなく「うつ」の世界で実際に戦い、復活をとげた(とげましたよね?)人自身の視点からの手記は、とても貴重なものなのではないかと。
著者のお兄さんの精神科医の先生によると、ストレス社会に生きる現代人は誰でも「うつ」になりえるのだとか。
この本は、そんな社会に生きる私達の希望になる本なのかも、しれません。