【03】郵便配達人の独白(1)

文字数 1,564文字

頭が重い。
酷く思い。
何でこんなに頭が重いんだろう?

新型コロナのせいかな?
感染したのかな?
感染しているのかも知れないな。

でも、検査を受けに行くのは面倒だな。
金もないしな。

この間、あのボルトンとかいう爺さんの家に配達して以来、何か変だよな。
あの時、爺さんから感染したのかな?

あの時、爺さんと喋った時、ちょっと変な感じがしたっけ。
あの家、周りに何もなくて気味悪いよな。

あそこに行くの、嫌だったんだ。
幽霊か何か出そうだし。

ビルの奴は俺が嫌いなんだ。
だからあんな、辺鄙な家しかない地域の担当ばかり、俺にさせやがるんだ。

あれからだよな。
あれから何となく気分が悪いんだよな。

アスピリン飲んでも全然効かない。
だんだんと酷くなってきた。

頭が重い。
ものすごく重い。
気分が悪い。

これでは、今日も仕事に行けないじゃないか。
何日行ってなかったっけ?よく思い出せない。

ビルがまた怒るだろうな。
昨日電話した時も、かなり怒ってたしな。

電話?あ、ビルだ!
「もしもし」
「おい、ベン。お前、どういうつもりだ。ええ?何で仕事に来ねえんだ?」

「あ、すみません。今日も体調悪くて…」
「体調悪いだと?お前ふざけてやがるのか?おい。何日休んでやがるんだ。もう5日だぞ。他の連中が、お前の分まで配達しなくちゃならないから、迷惑してるんだよ。分かってんのか?」

「すみません。でもコロナかも知れないんで」
「コロナだと?検査受けたのか?」

「体調悪くて、外出てないんで。受けられないんですよ。すみません」
「すみませんじゃねえよ。さっさと行って、検査受けて来いよ」

「体調悪くて」
「…」

「もしもし?」
「今日検査受けて来い。受けなかったら、お前、(くび)にするぞ。それから、もし結果が陰性だったら、仕事さぼってたということで馘だ。いいか?」

「何で?」
「何でじゃねえだろ。仕事しねえ奴を雇う筋合いはないんだよ!そんな奴に給料払う馬鹿が、一体不景気なこの世の中の、どこにいると思ってんだ?おい!」

何だ、この野郎。偉そうにしやがって。
体調悪いって言ってるだろう。

頭重いんだよ、こっちは。
そう言ってるだろう。
むかつく。むかつく。むかつく。むかつく。

「こら、ベン。何黙ってんだ?何か言ってみろよ。」
「うるさあああい。うるさい。うるさい。うるさい。黙れ!黙れ、黙れ、黙れ。殺すぞ、殺すぞ、殺すぞ!」

「な、何だと?こら。お前頭おかしくなったんじゃねえのか?俺はお前の上司だぞ。何だその口の訊き方は?」
「…」

「お前、もう来なくていいわ。馘だ、馘。分かったか?文句あるなら、訴えるなり何なりしろ。馬鹿、死ね。ガチャ。プープープー」
あ?馘?何で?どうしよう。

もういいや。仕事に行く気になんかならないし。
こんなに調子が悪いのは、プライマリースクール以来だな。

あの時は辛かったな。
毎日あの、大女のキャシーの奴に小突き回されて。
あの馬鹿女のせいで、学校に行くのが嫌だった。

でも、あの馬鹿女を噛んでやった時はすっきりしたな。
首を思いきり噛んでやった。血が出るまで噛んでやった。

キャシーの奴、泣きわめいてたな。
小便漏らしてたな。

先生に思いっきり怒られたけど。
ママは先生とキャシーの親に泣きながら謝ってて、可哀想だったけど。

気分良かったな。
がぶっと血が出るまで噛んでやった。

キャシーの馬鹿は、「止めてよ」と泣いて頼んでたけど、放してやらなかった。
絶対放してやらなかった。

毎日、毎日、俺を虐めやがって。
馬鹿にしやがって。
絶対許してやらなかった。

キャシーの奴、最後は訳の分からないことを喚きながら、泣いてたな。
気分良かったな。物凄く気分良かったな。

あの時の気分は最高だった。
本当に今までで最高だったな。
あの馬鹿女の首の肉に歯が食い込んだ、あの感触が堪らなかったな。

気持ちよかったな。
本当に気持ちよかったな。
噛みたいな。また噛みたいな。
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