【02-2】2022年、ロンドン、インフィールド自治区郊外(2)

文字数 1,738文字

『その通りだ。しかしそのことが返って、吾等の選択を過らせたと推察される。
確かにこの人間がかつて所属していた<家族>という集団は、吾等にとって必要かつ、不純物の少ないエナジーを多く発する人間たちだった。

この人間たちも以前は家族と同様に、不純物の少ないエナジーを多く発していた。
しかしこの人間たちが日々発するエナジーは、吾等が認識することが遅れる程、ゆっくりと変質していたと推察される。

この人間たちが発するエナジーに含まれる不純物の比率が、相対的に増加していたことを、吾等が認識した時には既に手遅れだった。

そして吾等はそれまでの間に、少量ずつではあるが、吾等にとって有害となる不純物を含んだエナジーを、意識しないまま継続的に摂取し続けていたと推察される。
影響を受けないはずもあるまい』

『しかしそれは、私たちにとって回避することが出来なかったことではありませんか。
私たちは、それがどの様な組成のエナジーであれ、それを摂取しなければ存在を維持することが出来ないのですから』

『汝の主張は正しい。吾等にとってそれは不可避なことだったのだ。
そしてその様な事象を、人間たちは<運命>と規定しているのだ。

吾は存在し続けるために、比較的不純物の少ないエナジーを発していたこの人間たちを選んだ。
吾の記憶では、その時点で不純物の少ないエナジーを発する人間は、特定の集団に限定されつつあった。

その数は、吾がこの世界で存在を開始した時点と比較すると、既に10%にも満たないと推測されるまで減少していた。
しかし現在では更にその数が減少している。

現在では吾等が必要とする、不純物の少ないエナジーを発する人間の数が非常に限定されてしまっている。
従って、仮令この人間たちとの共生を中止し、他の人間との共生を選択していたとしても、吾等に残された選択肢は非常に限定されていただろう。

やがて不純物によって自身の構成要素を侵食されるか、あるいは不純物を除いた僅かなエナジーを摂取しながら、徐々に縮小し、消滅していくかのいずれかだ』

『何故この様な状況になってしまったのでしょう?私が存在し始めた時には、有害な不純物の少ないエナジーを発する人間たちが、まだ多くいたというのに』

『汝が今思考したことは、本末が転倒している。
その様な人間の数が多かったからこそ、その多くのエナジーを摂取した者たちから分離して、汝が存在を開始することが出来たのだ。

吾は、汝が存在を開始した時点より、400年以上前から存在していた。
吾が存在を開始した時より更に200年以上前には、吾等はこの世界に多く存在していた。

しかし吾が存在を開始した時点でも、既に吾等の数は、その時代とは比較にならない程まで減少してしまったという知識を、吾より以前から存在していた者たちから共有された。
その時代には吾等にとって有害な不純物の含有量が非常に少ないエナジーを発する人間たちが、人間の人口の多数を占めていたと、その者たちは吾に伝えた。

従って当時存在していた者たちは、有害な不純物を除いたエナジーを十分に獲得し、新しい吾等を生じさせることが出来たようだ。
しかしその様に不純物の少ないエナジーは、ある時期から減少に転じた。

人間の人口が増大していくに従って、エナジーに含まれる不純物の割合が増加し始めたからだという知識を、吾はその者たちから共有された』

『その知識は今初めて私に共有されましたが、不純物を多く含むエナジーを発する人間が増加していることは、私が現在までの971年185日間で、継続的に認識してきた事実と合致します。
その様な人間が増加した原因は何だったのでしょう?』

『吾等がそのことを認識した時点では既に遅かったのだが、吾等にとって有害な不純物を生成するのは、人間本来の性質であるということが、かつて吾等が幾つかの仮説を検討した結果、到達した結論であった。

そして有害物の生成は、人間の数が増加するのと比例して加速されるということが同時に立証された。

しかも単に数の増加に比例するのではなく、人間社会の多様化や、個体や集団同士の関係性、個体や集団の間での所有物の量の格差等の複雑な因子が、加速の要因となることも同時に立証された』
『その様な検証が行われていたのですか?』
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