第8話 ケース1 女子高校生失踪事件⑦

文字数 1,520文字

 ベンチに座っている間に、夕日は沈み、真っ暗になってしまった。

「寒い」

 私は自分の身体を抱きしめる。風が落ち葉を巻きあげながら、私の身体を容赦なく冷やす。特に足。

 学校指定のブレザーの上に、コートを着ているが、足は特に防寒をしていない。

「ニーソックスでも履いてくれば良かった」

「……しばらく席を外す。ここで見張っていろ」

 来世さんは、立ち上がってどこかへと行ってしまった。彼は最初に出会った時と同様に、白い無地のワイシャツに、黒のジーンズとミリタリージャケットを身に着けていた。あの恰好は、寒くはないのだろうか?

(見張れっていうけどさ)

 今のところ異常なし。葉がすべて落ちた木々が一定の間隔で並ぶ公園内は、若いカップルやランニングをする人がほとんどで、怪しそうな人はいない。

 いーなー、私も走れば暖かくなるのに。なんて、思っていた私に追い打ちをかけるように冷ややかな風が吹く。さむーい、ってあれ。

「ほら」

 風を遮るように、来世さんが目の前に立ち、缶のお茶を差し出してくる。

「あ、ありがとうございます」

 受け取った缶は、とても暖かい。凍えた指先をジワリと温めてくれた。

「それで、異常は?」

「いえ、特には」

 意外と良い人なんだよね。

 ……我ながら単純だと思うけど、そう思ったとたん、この人の傍にいるは少しだけ気恥ずかしく感じてしまう。

「……もしや」

「いえ、すいません、妙な妄想なんかしてませんって、何です? もご!」

 来世さんの手が私の口を覆う。――ん、あれって?

 公園の入り口側に、私くらいの年代の子が立っている。いかにも気弱そうで、この距離からでも不安そうにしているのが分かる。そんな彼女に、優しそうに笑いかける男がいた。

「だい……だから、そう」

 距離と風のせいで、はっきりと聞こえないが、女の子は了承したらしく、頷いた後に男について公園の外へと歩いて行く。

「追うぞ、静かにな」

 念を押すようにそう言った来世さんは、歩き出す。

 彼女らは、公園から商店街へ、商店街から住宅地へと移動していく。

 突かず離れずの距離で尾行していた来世さんは、街路樹の陰へと隠れた。

「どうしたんですか?」

「ここらの住宅地は、この時間帯人通りが少ない。そのまま尾行すると目立つから、隠れながら行く」

 なるほど、了解。

 それにしても、彼女らはどこまで行くのだろう? 女の子はただ歩いているだけだが、男の人はかなり周辺を警戒しながら歩いている。おかげで何度も私は見つかりそうになった。

「おい、飛び出すな」

 あ、……ぶない。また、見つかるところだった。

 いやー、痛い。来世さんの視線が痛いこと。

「ん、目的地に到着したか?」

 マジ! あ、本当だ。街灯の近くにあの二人はいるので、距離が結構あっても見やすい。男はきょろきょろとあたりを見渡しながら、一戸建ての中へ女の子を招き入れた。

 足音を立てないように、私たちは建物へ近づく。

 ……なんか、拍子抜け。女子高校生を誘拐するくらいだから、もっといかにもな場所を思い浮かべていたのに。

 白い二階建ての住宅。特徴など特に言えないくらい普通の家だ。周囲は似たような家が立ち並び、風が時折どこかの木々を揺らす時くらいしか物音がしない。

「ここに冷夏がいるの?」

 前髪がふわりと風に巻かれ、私の視界を一瞬隠す。もう、うざったい。右手で前髪を払うと、人影が二階の窓に見えた。カーテンでよく見えないけど、あの長い髪と立ち姿は、冷夏?

「馬鹿、待て」

 身体が勝手に飛び出した。
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