第36話 ケース2 死神の足音⑫

文字数 1,110文字

 ――二十一時。シンシンと降る雪の中を、里香は歩く。

 黄色のダウンジャケットに、白のパンツ姿の里香は震えながら魔眼屋のドアを開けた。

「もう、天気予報の嘘つき。なんでこんなに雪が降ってるんですか?」

 椅子に座り、パソコンのキーを叩いていた来世は、わずかに目を見開いた。

「お前、どうしてこんな時間に?」

「手伝いますよ。タイムリミット、明日までですよね」

「そうだが、お前が気にすることじゃない。学生は家に帰って勉強でもしてろ」

 里香は、頬をぷくりと膨らませた。

「ありがとう、とかないんですか? どうせ徹夜する気だったんでしょう。私、友達の家に泊まってくるって言って来たんでばっちり手伝えますよ」

「……ふん、だったらテーブルに置かれた物をバッグに詰めといてくれ」

 里香は、言われた通りテーブルの上に散らばっている物を、茶色のボストンバッグに入れていく。

 だが、ピタリと動きを止めた。

「来世さん、これ何ですか?」

 里香の手には、縄でぐるぐるに巻かれ、護符が貼られた細長い物体が握られている。

 来世は、コーヒーカップを口に運び、そして湯気を眺めながら、答えた。

「明日の切り札になるかもしれないものだ。使わないで済むなら良いけどな」

「へえ? なんだかすごそう。ああ、そういえば、私が調べた情報役立ちました? もう大変だったんですよ。図書館行ったり、パソコンで探したり」

 里香は、ため息を吐いた。

 学校では勉強嫌いで通っている彼女が、あんなに文字を読んだのは初めての経験だった。来世に命じられ、古い新聞をひたすらに読み漁る。絵を描く時以外は、身体を動かしているほうが好きな里香にとって、地獄と評して良い仕事だった。

 到底一人では読みきれなかったので、友人の冷夏と藍子にも手伝ってもらった結果、怨霊となった少女の正体が判明した。

 来世は、デスクの上に置かれたコピー用紙を手に取り、ひらひらと振って微笑した。

「珍しくお前の情報は役立ったぞ里香」

 里香は、大げさに身体をのけ反らせ、自身の髪を人差し指でいじり始めた。

「来世さんにまともに褒められた! う、ううー」

 顔を両手で覆った里香が嗚咽を漏らす。

 ウソ泣きだろう、と思った来世は、彼女の頬から大粒の涙がボロボロと落ちてくるのを見て舌打ちをした。

 彼は椅子から立ち上がり、テッシュを数枚彼女の手に押し付け、それから手に持ったコピー用紙に目を落とした。

 このコピー用紙は、里香がコピーした新聞紙の一面である。その新聞の一面には、着物を着た少女の写真と凄惨な事件の概要が掲載されていた。
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