第39話 ケース2 死神の足音⑮
文字数 1,280文字
「なんだこの音は?」
窓が割れたような音が、トイレのあたりから聞こえる。
来世は、眉間にしわを寄せ、それからハッとした。
「岩崎さん、ドアを開けろ」
来世は、トイレのドアに駆け込み、ドアノブを回すが鍵がかかっている。
「クソ」
「どうしたんですか?」
里香に返事をする時間も惜しく、来世は外へ飛び出した。
向かう先は、建物と建物の隙間。ちょうどトイレの窓がある辺りまで走ったところで、ジャリっとした感触が靴底から伝わった。
「あいつ、どういうつもりだ?」
来世はスマホの照明を使って、周囲を照らす。足元にはガラス片が散らばり、トイレから漏れ出た明かりが、向かいの建物の壁を鋭く浮かび上がらせている。
岩崎が、不信感を抱いていたのは察してはいた。しかし、他に頼る術もないはずの岩崎が、こんなにも大胆で無鉄砲な真似をするのは想定外だ。
考えろ、奴はその辺にいるはず。
「……ん?」
降り積もった雪に、足跡が刻まれている。大きさからして、二十七センチメートルほど。恐らく岩崎のものだろう。
「来世さん、もしかして岩崎さん逃げちゃったんですか?」
「里香、岩崎を追うぞ」
「はい、絶対見つけましょう」
二人は、岩崎の足跡を追って駆けだした。
雪はなお、降り積もる。急がねば、足跡が消えてしまうだろう。
……足跡は、建物の隙間から建物の裏側にある道に続く。
岩崎は、寝不足とストレスによってボロボロの状態だ。とても、遠くへ行けないはず。そう予想していた来世の期待は、あっさりと裏切られた。
足跡は歩道まで続き、ピタリと立ち止まっている。その先は、道路だ。……そこから導き出される答えは、
「タクシーに乗ったみたいですね」
「……らしいな。ここまでか」
来世は真っ白い吐息を漏らす。もう数分、もしくは数秒前、同じ場所で吐息を漏らしたであろう岩崎はどこへ向かったのか。彼の行方を知るはずの空は静かに二人を見下ろす。
※
日は暮れ、紅もゆる空から濃墨の空へと移りゆく。
岩崎が失踪してから二十時間近く経過しようとしていた。
現在の時刻は十七時半。怨霊が現れる時間帯は、二十時が多い。
あれから里香と岩崎を探して街を駆け巡った来世だが、一向に岩崎を見つけることはできなかった。
来世は事務所のソファにどっかりと座り、ギリギリと歯が鳴るほど食いしばる。
「家、職場、どこにもいない。どう探せば良い」
「来世さん……ほら、スマホを逆探知するとか」
「それは、すでに試した。知り合いにハッカーがいるんだが、どうもあいつはスマホの電源が切れたのか、壊したかしたらしい」
里香が、がっかりとした様子で来世の隣に座る。
……考えれば、この子にもだいぶ無理をさせているな。まだ高校生の子に、何をさせているのか。
来世は、苦虫を噛み潰した気持ちで、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
「ん? ああ、お守りか」
手に硬い感触を感じ取りだすと、奇々怪々から購入したお守りが姿を現した。このお守りは岩崎にも渡してある。捨ててなければ、強力な結界として機能するはず。
怨霊が現れても、すぐさま呪い殺されることはないだろう……。
窓が割れたような音が、トイレのあたりから聞こえる。
来世は、眉間にしわを寄せ、それからハッとした。
「岩崎さん、ドアを開けろ」
来世は、トイレのドアに駆け込み、ドアノブを回すが鍵がかかっている。
「クソ」
「どうしたんですか?」
里香に返事をする時間も惜しく、来世は外へ飛び出した。
向かう先は、建物と建物の隙間。ちょうどトイレの窓がある辺りまで走ったところで、ジャリっとした感触が靴底から伝わった。
「あいつ、どういうつもりだ?」
来世はスマホの照明を使って、周囲を照らす。足元にはガラス片が散らばり、トイレから漏れ出た明かりが、向かいの建物の壁を鋭く浮かび上がらせている。
岩崎が、不信感を抱いていたのは察してはいた。しかし、他に頼る術もないはずの岩崎が、こんなにも大胆で無鉄砲な真似をするのは想定外だ。
考えろ、奴はその辺にいるはず。
「……ん?」
降り積もった雪に、足跡が刻まれている。大きさからして、二十七センチメートルほど。恐らく岩崎のものだろう。
「来世さん、もしかして岩崎さん逃げちゃったんですか?」
「里香、岩崎を追うぞ」
「はい、絶対見つけましょう」
二人は、岩崎の足跡を追って駆けだした。
雪はなお、降り積もる。急がねば、足跡が消えてしまうだろう。
……足跡は、建物の隙間から建物の裏側にある道に続く。
岩崎は、寝不足とストレスによってボロボロの状態だ。とても、遠くへ行けないはず。そう予想していた来世の期待は、あっさりと裏切られた。
足跡は歩道まで続き、ピタリと立ち止まっている。その先は、道路だ。……そこから導き出される答えは、
「タクシーに乗ったみたいですね」
「……らしいな。ここまでか」
来世は真っ白い吐息を漏らす。もう数分、もしくは数秒前、同じ場所で吐息を漏らしたであろう岩崎はどこへ向かったのか。彼の行方を知るはずの空は静かに二人を見下ろす。
※
日は暮れ、紅もゆる空から濃墨の空へと移りゆく。
岩崎が失踪してから二十時間近く経過しようとしていた。
現在の時刻は十七時半。怨霊が現れる時間帯は、二十時が多い。
あれから里香と岩崎を探して街を駆け巡った来世だが、一向に岩崎を見つけることはできなかった。
来世は事務所のソファにどっかりと座り、ギリギリと歯が鳴るほど食いしばる。
「家、職場、どこにもいない。どう探せば良い」
「来世さん……ほら、スマホを逆探知するとか」
「それは、すでに試した。知り合いにハッカーがいるんだが、どうもあいつはスマホの電源が切れたのか、壊したかしたらしい」
里香が、がっかりとした様子で来世の隣に座る。
……考えれば、この子にもだいぶ無理をさせているな。まだ高校生の子に、何をさせているのか。
来世は、苦虫を噛み潰した気持ちで、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
「ん? ああ、お守りか」
手に硬い感触を感じ取りだすと、奇々怪々から購入したお守りが姿を現した。このお守りは岩崎にも渡してある。捨ててなければ、強力な結界として機能するはず。
怨霊が現れても、すぐさま呪い殺されることはないだろう……。