第40話 ケース2 死神の足音⑯

文字数 1,372文字

「そうか」

 来世の頭に光が弾けた。スマホを取り出し、崎森 ヒナに電話をかける。彼女はワンコールであっさりと出た。

「やあ、君か。この前は脈絡もなく切ってしまって申し訳ない。いや、私もほら、仕方なかったっていうか」

「どうでも良い。それよりな、お前に聞きたいことがある。ご神木の欠片が封入されたお守りを持った依頼人が逃亡した。どうにかして探せないか?」

「はあ? どうすればそんな面白展開になるの? うーん、私がその街にいれば探せたかもしれないけど、ここからじゃ難しいかな。……あー、待って。そのお守りは、一つしかないのかい?」

「いや、全部で五つ、じゃない複数だな。お前、確か前に言っていただろう。元が同じ物で、それが分かたれたものの場合、分かれていてもそれらにはつながりがあるって話。そいつを利用して、どうにか依頼人の場所を探れないか?」

 フフ、と笑い声が聞こえる。心なしか崎森の声の調子が明るい。

「できるよ。できるかも、と思って私にかけたのだろう? 正解も正解、大正解の判断だ。よし、今からいうものを用意して」

 来世は、言われた品をすぐさま用意した。といっても、夕京街の地図と奇々怪々から購入したお守りを用意しただけなので、大した手間はかからなかった。

「で、どうすれば良い?」

「まず地図をテーブルの上に、そしてお守りを手に持ち、地図へ掲げてほしい。後は私がするわ」

「それだけか? 分かった、始めてくれ」

 スマホのスピーカーから崎森の呪文が流れてくる。何を言っているのか来世にはまるで分らなかったが、流麗な声は聴いていて心地よい。

「……うん、地図を見て」

 崎森が呪文を唱え終えた瞬間、地図に光点が浮かび上がる。数は十五。うち四つは魔眼屋を指し示し、残りはあらゆる場所で光り輝いている。

 ――しばし、光点を観察していた来世はあることに気付く。十五ある光のうち、一つだけが他の光よりも煌煌と輝いている。そして、その特大の光の横にも、一つだけ光が浮かび上がっていた。

 なるほど、と得心がいった来世はフン、と鼻息を吐いた。

「ここは、闇払神社か? あいつなりに考えたわけだ」

「神社ですか? 確かに悪霊から守ってくれそうな場所ですね」

 里香がコクコクと、壊れた振り子のように何度も頷く。

 その様がおかしくて、来世はわずかに笑った。

「神社に鳥居があるだろう。あの鳥居を隔てた先は境内という。境内は、いわゆる結界の中にある聖域だ。あそこにこもっていれば、単なる怨霊相手なら大丈夫だろうさ」

「へえ、なるほど。でも、この光ってお守りを指し示しているんですよね? んー、一個だけめちゃくちゃ光ってますね」

「ああ、その特大の光は、おそらくご神木の常世だろう。落雷によってダメージを受けたとはいえ、無事だったらしい。……と、なんだ?」

 スマホから大声で呼びかける声があったので、来世は耳にスマホをあてた。と、すぐさま

「隣に見習いちゃんいるんでしょう? 代わりなさいな」

 と崎森の声が鼓膜に突き刺さった。

 来世は、些か驚く。崎森は、いかなる時もどこか余裕を感じさせるような口調でしゃべる女である。だが、今の声は余裕がなく、切迫した様子のように感じた。

「あ、ああ。里香、崎森がお前に用があるそうだ」

「え? 私に? どうして?」

 さあな、と味気なく返答し、来世は意識を地図に向ける。
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