第98話 ケース4 姿見えぬ殺人鬼⑥
文字数 1,334文字
――結論として、怪しい物は一切見つからなかった。
それぞれの面々は疲れた様子で、自身の部屋に引き上げた後だ。
来世は、自室の部屋で頭を抱える。
何かが起こるのは間違いがない。だが、目下のところ部屋にこもって安全確保に努める以外にできることはない。
(もっとも、爆弾がまだ残っているならば、こんなペンションの壁など気休めにしかならないが)
来世は目を閉じて、こめかみの辺りを親指でほぐす。ちょうどのそのタイミングで、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「古城です。コーヒーを淹れたので良かったら」
「ああ、わざわざありがとうございます」
来世は、ドアを開ける。ふわりとコーヒーの香りと並んで、瞳がつけている香水の匂いがした。
来世は、カップを受け取ると、口を付けた。インスタントと思っていたが、どうやら豆をドリップしたらしい。豊潤な香りと適度な苦みが、緊張で凝り固まった心をわずかに緩める。
「来世さん、お休みになられてはどうですか? 窓は家具で塞いで簡単に室内に入れないようにしましたし、ドアも施錠した上に沢山鈴を取り付けているので、侵入してもすぐに気付けます。ひとまずは安心でしょう」
「いえ、油断しないでください。正直、犯人の思考がまるで読めない。どんな可能性も考慮すべきです。もちろん、いざという時に動けないでは困るので仮眠は取りますが、気は抜けない。三人で交代して仮眠をとりましょう」
「はい、そうですね。じゃあ、まずは私が見張りをします。里香ちゃんは眠っちゃいましたから」
瞳は口元に手を当て笑う。ため息を零した来世は、軽く頭を下げた。
「どうしようもない奴だ。まったくそれだからいつまでも助手見習いを卒業できないんだ」
「いいえ、疲れていたんですよ。私は、さっきの捜索であまり力仕事をしていないから、少し余裕があります。来世さんは積極的に働いていましたし、ゆっくり休んでください」
「……そう、ですか。では、お言葉に甘えて、二時間ほど仮眠をとります。何かありましたらすぐに起こしてください」
「はい、任されました」
瞳が上品に頭を下げ、自室へと引き上げていく。来世は、コーヒーを飲み干すと、ベッドに横になった。眠気は雷のような速さで押し寄せ、来世を夢の世界へ誘う。
※
「来世さん、起きてください。来世さん」
――ん? 誰だ。
「来世さん、大変です」
体が揺れている? 来世は、ゆっくりと目を覚ます。視界は、里香の青ざめた顔で埋め尽くされている。
「里香? は」
急速に意識が覚醒した。来世は、起き上がると腕時計を確認する。
時計の針は、彼が三時間眠ったことを報せていた。
「くそ、寝すぎた。里香、何かあったのか?」
「じ、実はその」
里香の声は震え、口から吐き出される言葉は要領を得ない。
来世は、彼女の肩を掴むと、「落ち着け」と声をかけた。
「あ、あの」
「緊急事態だな」
「はい」
「どんな? ゆっくりで良いから答えろ」
「……木村さんが死んでいます」
来世は、目を見開きすぐに表情を引き締めた。
「殺されたか」
「あ、あの殺されたのは間違いないらしいですけど、妙なんです」
「妙?」
「なんだか、獣に殺された感じらしいです」
なんだそりゃ。
来世の心に、その一文がくっきりと浮かびあがった。
それぞれの面々は疲れた様子で、自身の部屋に引き上げた後だ。
来世は、自室の部屋で頭を抱える。
何かが起こるのは間違いがない。だが、目下のところ部屋にこもって安全確保に努める以外にできることはない。
(もっとも、爆弾がまだ残っているならば、こんなペンションの壁など気休めにしかならないが)
来世は目を閉じて、こめかみの辺りを親指でほぐす。ちょうどのそのタイミングで、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「古城です。コーヒーを淹れたので良かったら」
「ああ、わざわざありがとうございます」
来世は、ドアを開ける。ふわりとコーヒーの香りと並んで、瞳がつけている香水の匂いがした。
来世は、カップを受け取ると、口を付けた。インスタントと思っていたが、どうやら豆をドリップしたらしい。豊潤な香りと適度な苦みが、緊張で凝り固まった心をわずかに緩める。
「来世さん、お休みになられてはどうですか? 窓は家具で塞いで簡単に室内に入れないようにしましたし、ドアも施錠した上に沢山鈴を取り付けているので、侵入してもすぐに気付けます。ひとまずは安心でしょう」
「いえ、油断しないでください。正直、犯人の思考がまるで読めない。どんな可能性も考慮すべきです。もちろん、いざという時に動けないでは困るので仮眠は取りますが、気は抜けない。三人で交代して仮眠をとりましょう」
「はい、そうですね。じゃあ、まずは私が見張りをします。里香ちゃんは眠っちゃいましたから」
瞳は口元に手を当て笑う。ため息を零した来世は、軽く頭を下げた。
「どうしようもない奴だ。まったくそれだからいつまでも助手見習いを卒業できないんだ」
「いいえ、疲れていたんですよ。私は、さっきの捜索であまり力仕事をしていないから、少し余裕があります。来世さんは積極的に働いていましたし、ゆっくり休んでください」
「……そう、ですか。では、お言葉に甘えて、二時間ほど仮眠をとります。何かありましたらすぐに起こしてください」
「はい、任されました」
瞳が上品に頭を下げ、自室へと引き上げていく。来世は、コーヒーを飲み干すと、ベッドに横になった。眠気は雷のような速さで押し寄せ、来世を夢の世界へ誘う。
※
「来世さん、起きてください。来世さん」
――ん? 誰だ。
「来世さん、大変です」
体が揺れている? 来世は、ゆっくりと目を覚ます。視界は、里香の青ざめた顔で埋め尽くされている。
「里香? は」
急速に意識が覚醒した。来世は、起き上がると腕時計を確認する。
時計の針は、彼が三時間眠ったことを報せていた。
「くそ、寝すぎた。里香、何かあったのか?」
「じ、実はその」
里香の声は震え、口から吐き出される言葉は要領を得ない。
来世は、彼女の肩を掴むと、「落ち着け」と声をかけた。
「あ、あの」
「緊急事態だな」
「はい」
「どんな? ゆっくりで良いから答えろ」
「……木村さんが死んでいます」
来世は、目を見開きすぐに表情を引き締めた。
「殺されたか」
「あ、あの殺されたのは間違いないらしいですけど、妙なんです」
「妙?」
「なんだか、獣に殺された感じらしいです」
なんだそりゃ。
来世の心に、その一文がくっきりと浮かびあがった。