第9話 ケース1 女子高校生失踪事件⑧

文字数 1,041文字

 扉のドアノブを掴み、回してみるが、もう! 鍵がかかっている。

「だったら」

 建物の側面に移動すると、窓があった。こっちも鍵がかかってるけど、

「やああ!」

 ブロック塀に立てかけられていた箒を手に、思いっきり叩いてやった。

 ――ぐ、割れない、ひび割れただけ。

 何度も叩いてやる。

「この、この!」

柄がぶつかるごとに、硬い感触が手に伝わる。ゼエ、ゼエ、やっと割れてきた。

「おい」

 来世さんが、箒の柄を掴み、何をどうやったのか、一瞬で奪い取ってしまう。

「返して!」

「頭を使え馬鹿が、チィ!」

 ……? あ、いつの間にか複数の男たちが、私たちを睨んでいた。

 背後はブロック塀、前は住宅の壁、左右にいかにもガラの悪そうな恰好の男たち。

 ……もしかして、もしかしなくともピンチなんじゃない?

「オタクら、何?」

「え、えーと、ピザ屋さんでーす」

 一瞬場が固まる。けど、

「どこに窓を叩き割るビザ屋がいるってんだよ」

「ですよねー、来世さーん」

 ドッと、男たちが押し寄せてくる。

「離れるな」

 来世さんは叫ぶなり、箒を槍のように繰り出して、男たちを押しとどめる。

「凄い、で、でも」

 場所が狭いのと、私がいるせいで、すごく戦いにくそうだ。

「おら、おらどうした兄ちゃん」

 ああ、そうこうしているうちに、来世さんが追い詰められていく。

「嬢ちゃんはこっちだよ」

「キャアア、放して」

 しまった、やっばいよ、掴まれちゃった。手足に力を入れて、思いっきり暴れるが、ゴリラみたいな男は、がっしりと私を羽交い絞めにして動けない。

「へへ、悪いことをした嬢ちゃんには、お仕置きしないとな」

「やめろ! その子には手を出すな。……クソが、投降する」

 あ、嘘だ。来世さんは、箒を地面に放り投げ、両手を上げた。

「おい、兄ちゃん。男の子は、女の子よりも頑丈だって知ってるかよ?」

 う! 鈍い音がした。来世さんが、殴られて、あ、ああ、そのまま、蹴られたり、叩かれたりして……。

 怖い。目を閉じた、けど。ハンマーで殴ったような鈍い音が聞こえて、それになんか血の臭いまで。

「ごめんなさい、ごめんなさい、来世さん、来世さーん」

 みっともない。幼稚園児みたいに、泣くことしかできない。音が聞こえるたび、胸がギュッと痛む。暖かな涙が、頬を流れていく。……けれど、私の身体は震えて、冷えていくばかりだった。
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