第20話 ケース1 女子高校生失踪事件⑲

文字数 999文字

 そう、ずっと気になっていた。冷夏に聞いても、いまいち覚えていないっていうし、今朝のニュースを見ても私が知っている以上の情報はわからなかった。

 でも、きっと、この人なら知ってる。だって、捜索をしている間、どこか確信しているような顔をしていたからだ。

 彼は、私の心を見透かしたように、片眉をピクリと動かした。

「……まあ、お前は当事者でもあるから、知りたいのは当然か。どうせ、冷夏って子も洗脳の影響で記憶がまだ混濁しているんだろう」

「はい……。詳しくは教えてくれなかったんですけど、強い薬も打たれたらしくって、退院してからも午前中は病院に通ってるんです。事件から一か月も経っているのに、何にもわかんないのがもどかしくって」

 ちょっと俯いた。泣きそうだったから、前髪で目元を隠すために。……真相を聞きに来て、こんなざまな自分が少し情けない。

 来世さんは、立ち上がると

「飲み物は?」

 と不愛想に聞いてきた。

「えっと、暖かい紅茶」

「……ふん、運が良かったな。さっきの客がくれたティーパックがある」

 来世さんは、ツカツカと足音を鳴らしながら、おそらく給湯室に向かうと、やかんに水を入れたっぽい音を鳴らし始めた。……結構水を入れるな。自分も飲むんだろう。

「さて、どこから話したものかな。あの事件そのものは、単純なものさ。一言でいえば、人の不安を利用した誘拐だな」

「不安って、そりゃあんなウジ虫が目から飛び出した死体の写真が送られたら不安でしょ」

 ガスコンロの火をつけ、やかんを沸かすステップに入った彼は、カチャカチャ……この音はカップかな? せっかくお客様として来てるんだから、可愛らしいティーカップだと嬉しいな。

 来世さんは、やることがなくなったのか、物音を立てなくなり、良く通る声で続きを話し出した。

「そう、不安だ。だが、どのくらい不安に感じるかは個人差がある。ある人は、気持ち悪いと思うくらいだが、ある人にとっては、呪いをかけられたような不安に駆られ、落ち着かない気持ちになる」

 あ、と私は声を上げた。

「もしかして、あの時私に冷夏は思い込みが激しい子かどうか聞いたのって、それが関係してます?」

「ほう、お前と会って初めてまともな回答な気がするよ」

 ふんだ、余計なお世話だ。

 なんか、腹立ってきたし、めそめそ泣くのやめ。

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