第96話 ケース4 姿見えぬ殺人鬼④
文字数 1,589文字
地面が揺れている。
(く、地震か? いや、この音は爆弾みたいだった)
来世はしゃがんで、揺れが収まるのを待った。
もうもうと煙が漂い、焦げた臭いが鼻を掠める。
周囲には、パラパラ、という音が次々と鳴った。
「無事ですか? そこから動かないで」
来世は、周囲の人々の安全を確認してから爆発の発信源を睨みつけた。
音は洋館の辺りから轟いた。
「ん?」
すでに周囲は夜の帳が下り、ペンションから漏れるわずかな光だけが頼りの状況だ。そのため、はっきりと断言はできないが、どうも洋館の形がおかしい。
来世は、里香に命じて懐中電灯を受け取ると、明かりを洋館に差し向けた。
「これは……」
来世は絶句する。絶句するしかないだろう。豪奢で美しかった洋館は、見るも無残に瓦礫の山と化している。
音にびくついた他の参加者たちも、懐中電灯を手に続々と集まってきた。
「な、なんだ」
「嘘!」
「マジかよ」
「……」
参加者は誰もが青ざめた様子で立ち尽くす。
来世は、一足先にショックから立ち直り、拳を握りしめた。
何かアクションがあることは予想していたが、これは流石に百戦錬磨の来世でも理解の外にある。依然として犯人の目的は分からないが、一つだけはっきりしていることは閉じ込められた、という事実だ。
洋館はペンションの入り口の役割を果たしており、崖の幅ギリギリの大きさであった。つまり、爆破されたことで入り口は瓦礫に塞がれた形となる。
(やってくれるじゃないか)
来世は、ただでさえ鋭い視線をナイフのように研ぎ澄まし、表情から一切の感情をそぎ落とした。
※
「ああ、駄目だ駄目だ。こんなの無理だって」
山内が、瓦礫を見上げ叫んだ。
到底瓦礫は人力で動かせるものではなく、登っていくことも難しい。ましてや下手に動かしてこれだけの質量のものが、雪崩こんでしまえば大怪我ではすまない。
まさに八方ふさがりであり、外部の助けがいる。――しかし、
「あれ、おかしいな? スマホが繋がりませんね。ここは山奥ですので、元々あまり通信環境が良いわけではありませんが、全く繋がらないのは初めてです」
伊藤は、苦い顔でスマホを耳から離した。
「こんなけデカい音が鳴ったんだから、誰か助けにくるだろ?」
「いえ、ここは山奥ですし、山の周辺にはろくな民家がありません。果たして気付いたかどうか」
伊藤の言葉に、活路を潰された西城は顔じゅう皺だらけになるほど表情を歪めた。
「幸い、と手放しで喜べませんが、一号館から六号館には、それぞれに非常食や飲み水がありますので、しばらくは持ちます。……ただ、いつ救助が訪れるかは分かりません。こんな事態になってしまって、ほんと、どうお詫びすべきか」
伊藤の謝罪に、西城と伊藤は舌打ちをするが、殴りかからないほどの冷静さはまだ持ち合わせていた。
木村は、懐中電灯で瓦礫を照らしながら震えた声でこの場の全員に問いかける。
「ねえ、これって建物の老朽化とかかな?」
「はあ? 馬鹿じゃないの。さっきの爆発音聞いたでしょう。誰かが意図的に破壊したのよ」
吉川は、全員から距離をとると
「誰も信用できないわ。私は部屋に戻る」
速足でその場を去ろうとした。
だが、来世が道を阻む。
「何?」
「部屋に戻るのは構いませんが、少しお待ちを。犯人を今すぐ捜さないといけない」
「どういうこと?」
木村の疑問に来世は、よく通る声で答えた。
「背後の瓦礫は、間違いなく事故ではなく故意によるものです。この場にいる誰も犯人ではなく、外部の人間が私たちを閉じ込めるために行った可能性もあるが、そうじゃない可能性もある。分かりやすくいうなら、この中にいる誰かが私たちの退路を断った状態で、何か良からぬことを考えている、という可能性だ。もし、そうであるならば、ここで犯人を特定しておかないと、不安で夜も眠れないでしょう。早急に全員のアリバイを確認したい」
(く、地震か? いや、この音は爆弾みたいだった)
来世はしゃがんで、揺れが収まるのを待った。
もうもうと煙が漂い、焦げた臭いが鼻を掠める。
周囲には、パラパラ、という音が次々と鳴った。
「無事ですか? そこから動かないで」
来世は、周囲の人々の安全を確認してから爆発の発信源を睨みつけた。
音は洋館の辺りから轟いた。
「ん?」
すでに周囲は夜の帳が下り、ペンションから漏れるわずかな光だけが頼りの状況だ。そのため、はっきりと断言はできないが、どうも洋館の形がおかしい。
来世は、里香に命じて懐中電灯を受け取ると、明かりを洋館に差し向けた。
「これは……」
来世は絶句する。絶句するしかないだろう。豪奢で美しかった洋館は、見るも無残に瓦礫の山と化している。
音にびくついた他の参加者たちも、懐中電灯を手に続々と集まってきた。
「な、なんだ」
「嘘!」
「マジかよ」
「……」
参加者は誰もが青ざめた様子で立ち尽くす。
来世は、一足先にショックから立ち直り、拳を握りしめた。
何かアクションがあることは予想していたが、これは流石に百戦錬磨の来世でも理解の外にある。依然として犯人の目的は分からないが、一つだけはっきりしていることは閉じ込められた、という事実だ。
洋館はペンションの入り口の役割を果たしており、崖の幅ギリギリの大きさであった。つまり、爆破されたことで入り口は瓦礫に塞がれた形となる。
(やってくれるじゃないか)
来世は、ただでさえ鋭い視線をナイフのように研ぎ澄まし、表情から一切の感情をそぎ落とした。
※
「ああ、駄目だ駄目だ。こんなの無理だって」
山内が、瓦礫を見上げ叫んだ。
到底瓦礫は人力で動かせるものではなく、登っていくことも難しい。ましてや下手に動かしてこれだけの質量のものが、雪崩こんでしまえば大怪我ではすまない。
まさに八方ふさがりであり、外部の助けがいる。――しかし、
「あれ、おかしいな? スマホが繋がりませんね。ここは山奥ですので、元々あまり通信環境が良いわけではありませんが、全く繋がらないのは初めてです」
伊藤は、苦い顔でスマホを耳から離した。
「こんなけデカい音が鳴ったんだから、誰か助けにくるだろ?」
「いえ、ここは山奥ですし、山の周辺にはろくな民家がありません。果たして気付いたかどうか」
伊藤の言葉に、活路を潰された西城は顔じゅう皺だらけになるほど表情を歪めた。
「幸い、と手放しで喜べませんが、一号館から六号館には、それぞれに非常食や飲み水がありますので、しばらくは持ちます。……ただ、いつ救助が訪れるかは分かりません。こんな事態になってしまって、ほんと、どうお詫びすべきか」
伊藤の謝罪に、西城と伊藤は舌打ちをするが、殴りかからないほどの冷静さはまだ持ち合わせていた。
木村は、懐中電灯で瓦礫を照らしながら震えた声でこの場の全員に問いかける。
「ねえ、これって建物の老朽化とかかな?」
「はあ? 馬鹿じゃないの。さっきの爆発音聞いたでしょう。誰かが意図的に破壊したのよ」
吉川は、全員から距離をとると
「誰も信用できないわ。私は部屋に戻る」
速足でその場を去ろうとした。
だが、来世が道を阻む。
「何?」
「部屋に戻るのは構いませんが、少しお待ちを。犯人を今すぐ捜さないといけない」
「どういうこと?」
木村の疑問に来世は、よく通る声で答えた。
「背後の瓦礫は、間違いなく事故ではなく故意によるものです。この場にいる誰も犯人ではなく、外部の人間が私たちを閉じ込めるために行った可能性もあるが、そうじゃない可能性もある。分かりやすくいうなら、この中にいる誰かが私たちの退路を断った状態で、何か良からぬことを考えている、という可能性だ。もし、そうであるならば、ここで犯人を特定しておかないと、不安で夜も眠れないでしょう。早急に全員のアリバイを確認したい」