第57話 ケース2 死神の足音㉝
文字数 1,055文字
「……来世さん、私は納得できません」
里香は少女の頭を撫でつけ、首を振った。
「だって、勝平さんと幸子ちゃんはずっと苦しめられてきたんですよ。なのに、なんで自分たちを苦しめた邪破教に縋るんですか? 会いたい気持ちは、分かります。でも、どうして幸子ちゃんをそんな風にしか呼べないような方法を選択したんですか?」
そんな風、とは幸ノ神を死神として機能させる方法のことだろう。来世は、手帳を閉じ、パイプ椅子の背もたれにもたれかかった。
「憶測にしかすぎんが、彼はその方法しか知らなかったんじゃないか? 神を死神として利用する術。崎森は禁術と言っていたがな。
浜 勝平は村を失踪するまでは邪破教を信じていなかった。両親から教えを受けていた可能性は高いだろうが、興味がないものを全て覚えていたかは懐疑的だ。しかし、禁術ともなれば、印象に残り、覚えることもあるだろう。……人の脳には扁桃体と呼ばれる部位がある。扁桃体は、好き嫌いを判別しており、記憶の定着に関係しているといわれている」
里香ばかりか、浜 幸子さえも首を傾げる。
来世は、顎をさすり、今度は一文字ずつなぞるように言葉を発した。
「楽しかったこと、苦しかったことなど、心が動いた出来事をいつまでも覚えているのは、扁桃体が関与してるってことさ。
邪破教は、彼にとって虐待を正当化させるための方便にしか感じず、どのような教えも同じようにしか聞こえなかっただろう。だが、禁術という言葉は、あまりにも印象が強い。……純粋に内容が興味深い、と感じたのか、はたまた自分たちをこれまで以上に苦しめる教えだと感じ恐怖したのか。本当のところは分からんが、ともかく彼は神と出会うための術を一つしか知らなかった。だから……いや、違うかもな」
心に浮かんだ言葉に、来世は内心頷いた。浜 勝平はきっと、
「浜 幸子。彼は君と一緒に復讐をしたかったのかもしれない。自分たちを虐げた大人たちに対する復讐。因縁の地であるこの場所で」
「そんなわけない。勝平兄ちゃんは、優しい人よ。あなたに何が分かるの!」
鋭い視線が来世を射抜く。しかし、来世は、その目を真っすぐ見据え、苦しそうに言葉を紡いだ。
「俺は確かに勝平とやらを知らない。だが、人は不変ではなく変わる生き物だということを知っている。神となってそれなりに長く存在し続けたのだから、心当たりはあるだろう。人は良い方にも悪い方にも変化するのだと」
「そ、それはそうだけど」
信じたくない。けれども、一理ある。浜 幸子の心に相反する言葉が、ぶつかり合った。
里香は少女の頭を撫でつけ、首を振った。
「だって、勝平さんと幸子ちゃんはずっと苦しめられてきたんですよ。なのに、なんで自分たちを苦しめた邪破教に縋るんですか? 会いたい気持ちは、分かります。でも、どうして幸子ちゃんをそんな風にしか呼べないような方法を選択したんですか?」
そんな風、とは幸ノ神を死神として機能させる方法のことだろう。来世は、手帳を閉じ、パイプ椅子の背もたれにもたれかかった。
「憶測にしかすぎんが、彼はその方法しか知らなかったんじゃないか? 神を死神として利用する術。崎森は禁術と言っていたがな。
浜 勝平は村を失踪するまでは邪破教を信じていなかった。両親から教えを受けていた可能性は高いだろうが、興味がないものを全て覚えていたかは懐疑的だ。しかし、禁術ともなれば、印象に残り、覚えることもあるだろう。……人の脳には扁桃体と呼ばれる部位がある。扁桃体は、好き嫌いを判別しており、記憶の定着に関係しているといわれている」
里香ばかりか、浜 幸子さえも首を傾げる。
来世は、顎をさすり、今度は一文字ずつなぞるように言葉を発した。
「楽しかったこと、苦しかったことなど、心が動いた出来事をいつまでも覚えているのは、扁桃体が関与してるってことさ。
邪破教は、彼にとって虐待を正当化させるための方便にしか感じず、どのような教えも同じようにしか聞こえなかっただろう。だが、禁術という言葉は、あまりにも印象が強い。……純粋に内容が興味深い、と感じたのか、はたまた自分たちをこれまで以上に苦しめる教えだと感じ恐怖したのか。本当のところは分からんが、ともかく彼は神と出会うための術を一つしか知らなかった。だから……いや、違うかもな」
心に浮かんだ言葉に、来世は内心頷いた。浜 勝平はきっと、
「浜 幸子。彼は君と一緒に復讐をしたかったのかもしれない。自分たちを虐げた大人たちに対する復讐。因縁の地であるこの場所で」
「そんなわけない。勝平兄ちゃんは、優しい人よ。あなたに何が分かるの!」
鋭い視線が来世を射抜く。しかし、来世は、その目を真っすぐ見据え、苦しそうに言葉を紡いだ。
「俺は確かに勝平とやらを知らない。だが、人は不変ではなく変わる生き物だということを知っている。神となってそれなりに長く存在し続けたのだから、心当たりはあるだろう。人は良い方にも悪い方にも変化するのだと」
「そ、それはそうだけど」
信じたくない。けれども、一理ある。浜 幸子の心に相反する言葉が、ぶつかり合った。