第31話 ケース2 死神の足音⑦
文字数 1,263文字
俺は、きょろきょろとあたりを見渡し、タクシーを呼び止めると、岩崎と一緒に乗り込む。
タクシーは、大通りをしばらく走り、小道が入り組む一角へと入り込んでいく。さすが運転のプロといったところで、中年のタクシー運転手は車のボディに傷をつけることなく、狭い路地を進む。……しかし、
「あー、すいませんお客さん。こっから先は車ではちょっと」
「はい、ここで構いません。岩崎さん、ここからは徒歩で向かいます」
岩崎が、気の抜けた様子で頷く。
俺たちは、タクシーがバックで走り去っていくのを見送り、路地を進む。
奥に行くほど狭くなっていく路地は、両側から壁が迫っているようで息苦しい。
「はあ」
岩崎は盛大にため息を吐き散らす。
目を見れば、何となくこいつの考えていることが察せられる。
大方、時間がないのに、こんな場所になぜ? と思っているのだろう。
俺だって用もないのに、薄暗くてシャッターが閉まった店だらけのこんな場所に、足を踏み入れる気はない。
「ら、来世さん。お店はまだですか?」
「もう少しですよ。ほら、そこの角を右に曲がればすぐに目的地です」
俺は、タバコ屋の角を指差した。
おそらくは昭和頃からある古いタバコ屋には、左右に頭を振って、現実と夢の世界を行き来している老婆が座っている。いつも来るたびこの調子だが、儲けているのだろうか?
気にしても仕方がないので、俺はその老婆の前を通り過ぎ、角を曲がった。するとすぐ右手に、カプセルトイが密集するエリアが現れた。
タバコ屋と同一の建物にあるそのエリアは、元はガレージだったものを改造したもののようだ。
左右の壁を埋め尽くすカプセルトイは、薄暗いこの場所にやけに浮いて見える。
「来世さん、グッズとやらは、こんな形で販売されているのですか?」
「まさか。これらに用はありませんよ。こちらです」
岩崎は、クラりとした様子で後ろに数歩よろめいた。
もしや、倒れるか? と思ったがそうじゃないらしい。真っ青な顔で、「こいつ正気かよ」と小さく言っているのが聞こえた。
少々イラついたが、カプセルトイ売り場に連れてきたのだから、その感想は許容範囲内だ。
顎で売り場の奥を指し示し、先に足を踏み入れる。
「ああ、もう」
乱暴に頭を掻いたような音の後、ズカズカとした足音が店内に響く。元気そうで何よりだ。
相変わらず、プン、とソフビのような匂いが満ちた空間だ。正直、この臭いが苦手で仕方ない。
俺は、なるべく呼吸をしないように歩き、古い筐体の前で立ち止まった。
売り場の右奥にあるこの筐体は、占い機というやつだ。
画面の前に水晶玉が設置されており、右側にコインの投入口、その下にパソコンのテンキーじみたものが見えた。
俺はポケットから百円玉を取り出し投入口にねじ込みむと、……ええっと、確か、記憶をもとにテンキーを八回叩く。
「は? 呑気に占いですか」
「下がって。危ないですよ」
タクシーは、大通りをしばらく走り、小道が入り組む一角へと入り込んでいく。さすが運転のプロといったところで、中年のタクシー運転手は車のボディに傷をつけることなく、狭い路地を進む。……しかし、
「あー、すいませんお客さん。こっから先は車ではちょっと」
「はい、ここで構いません。岩崎さん、ここからは徒歩で向かいます」
岩崎が、気の抜けた様子で頷く。
俺たちは、タクシーがバックで走り去っていくのを見送り、路地を進む。
奥に行くほど狭くなっていく路地は、両側から壁が迫っているようで息苦しい。
「はあ」
岩崎は盛大にため息を吐き散らす。
目を見れば、何となくこいつの考えていることが察せられる。
大方、時間がないのに、こんな場所になぜ? と思っているのだろう。
俺だって用もないのに、薄暗くてシャッターが閉まった店だらけのこんな場所に、足を踏み入れる気はない。
「ら、来世さん。お店はまだですか?」
「もう少しですよ。ほら、そこの角を右に曲がればすぐに目的地です」
俺は、タバコ屋の角を指差した。
おそらくは昭和頃からある古いタバコ屋には、左右に頭を振って、現実と夢の世界を行き来している老婆が座っている。いつも来るたびこの調子だが、儲けているのだろうか?
気にしても仕方がないので、俺はその老婆の前を通り過ぎ、角を曲がった。するとすぐ右手に、カプセルトイが密集するエリアが現れた。
タバコ屋と同一の建物にあるそのエリアは、元はガレージだったものを改造したもののようだ。
左右の壁を埋め尽くすカプセルトイは、薄暗いこの場所にやけに浮いて見える。
「来世さん、グッズとやらは、こんな形で販売されているのですか?」
「まさか。これらに用はありませんよ。こちらです」
岩崎は、クラりとした様子で後ろに数歩よろめいた。
もしや、倒れるか? と思ったがそうじゃないらしい。真っ青な顔で、「こいつ正気かよ」と小さく言っているのが聞こえた。
少々イラついたが、カプセルトイ売り場に連れてきたのだから、その感想は許容範囲内だ。
顎で売り場の奥を指し示し、先に足を踏み入れる。
「ああ、もう」
乱暴に頭を掻いたような音の後、ズカズカとした足音が店内に響く。元気そうで何よりだ。
相変わらず、プン、とソフビのような匂いが満ちた空間だ。正直、この臭いが苦手で仕方ない。
俺は、なるべく呼吸をしないように歩き、古い筐体の前で立ち止まった。
売り場の右奥にあるこの筐体は、占い機というやつだ。
画面の前に水晶玉が設置されており、右側にコインの投入口、その下にパソコンのテンキーじみたものが見えた。
俺はポケットから百円玉を取り出し投入口にねじ込みむと、……ええっと、確か、記憶をもとにテンキーを八回叩く。
「は? 呑気に占いですか」
「下がって。危ないですよ」