第7話 ケース1 女子高校生失踪事件⑥

文字数 1,443文字

「ここが、翔馬公園だ」

 ほうほう、ここが? 地元の公園だけど、家からはちょっと距離があるので来たことはない。

 沈む夕日に燃ゆる公園は、まばらに人が歩いていた。

 中央に噴水があって、遊具が奥のほうに見える。

 ……うーん、それ以外は、芝生が敷き詰められているだけで、特徴のない公園だ。

 来世さんは、スタスタと歩いたかと思うと、私を呼んだ。

「ここだ、この場所で撮影したはずだ」

 来世さんが、スマホを構えてそう言った。画面を覗くと、確かにあの不気味な写真とそっくりな景色が映っている。

 画面の右側に映る、真新しいガードレールには交通事故で誰かが亡くなったのだろう、沢山の花束やお菓子が置かれていた。

 正直、それだけでも不吉なのに、私の目の前にある芝生の上には、あの写真の死体があったのだ。地面を見ても、何の変哲もない芝生があるだけ。でも、私は氷の手が背筋を撫でたような悪寒を感じていた。

「フン、聞き込みをするぞ」

「聞き込みですか? どういった内容を聞けば良いんですか?」

「ちょっとは自分の頭で考えろ」

 頭痛を感じたように、彼は額に手を当てた。悪かったな、頭悪くて。

「良いか? 今回の一連の事件は、夕京街を中心に発生している。犯人は、ここを中心に活動しているのは間違いがない。女子高校生たちが失踪する際、彼女たちの周辺に怪しい人物は目撃されなかった。

 状況から考えて、彼女たちは自分から行動して、その結果、いなくなった可能性がある」

 自発的に行動して? いや、それはありえない。冷夏は、自分から危険なことに首を突っ込んだりしない。私がそう反論すると、来世さんは腕を組み、公園を見渡した。

「……冷夏という子は、思い込みが激しい子か?」

「え、突然なんです? んー、まあ思い込みは激しいかもしれません」

 思い返してみれば、あの子は妄想が暴走することがあった。例えば、有名なアイドルグループ『迅雷』の一人、西城にのめり込んだことがある。

 テレビで見る彼は、いかにも好青年と言った様子で、「あの方は聖人のような方なのよ」と会ったこともない人を褒めたたえていた。けど、西城が未成年と援助交際をしていた事実が発覚すると、千年の恋も冷めた様子で、「サヨナラ過去の人」と冷たく切り捨てた。

「よし、ここらを歩く人間にこう聞け、不安そうな様子の女子高校生に、優しく声をかけていた人は見なかったか? とな」

「それだけ? 死体のことは聞かないんですか? て、ちょっと」

 一瞥もせず、クルリと背を向け、行ってしまった。……もうちょっと、優しくしてくれても良いと思うな。

 と、私も聞き込みしなくちゃ。

 道行く人に、私は片っ端から声をかけた。



 ――だいたい、一時間くらいだろうか?

 聞き込みを終えた私は、来世さんと合流し、報告した。

「なるほど、やはり目撃者がいたか」

「ということは、来世さんも?」

「ああ、数名が目撃していた。しかし、巧妙だな。まさかそんな風に近づくとはな。……今後の方針としては、ここを見張る。後は俺が……はあ」

 私のやる気を感じたのだろう。来世さんは、仕方ないといった様子で、自身の腕時計を指差した。

「夜の十時までなら同行しても良い。だが、それ以上かかるようなら、お前は家に帰れ」

「了解、合点招致」

 やかましい、と来世さんは呟き、ベンチに腰掛けたきり黙り込んでしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み