第41話 ケース2 死神の足音⑰
文字数 1,012文字
……ここから闇払神社にはタクシーで二十分も走れば着く。だが、また逃げられても面倒だ。現場に向かい、こっそりと岩崎を監視し、怨霊が動き出すタイミングを待っていたほうが良いだろう。
「よし、やることは決まった。ひとまず神社に向かう。里香、お前は自宅で待機しておけ……どうした?」
「い、いえ。その、めっちゃ怖い人ですね崎森さんって。あ、スマホ返します」
何を言われたのか分からないが、里香はプルプルと震えていた。
はて? 崎森は基本的にあまり悪口を言うような女ではなかったはずだが。
不思議には思ったが、「ほら、帰りの駄賃をやる。タクシーに乗って家に帰ったらすぐに休め」と千円札を二枚押し付けるように渡し、来世は事務所を後にした。
※
寒風吹きすさぶ闇払神社は、ひどく閑散としていた。
玉砂利が敷き詰められた敷地内は夜の帳に包まれ、拝殿が静かに境内を見下ろしている。
岩崎は、賽銭箱の足元に猫のように丸まりながら、虚空を眺めていた。
鳥居からまっすぐに参道が続き、その参道の両脇に石灯篭が等間隔に並ぶ。
石灯篭のほんわりとした柔らかな明かりが参道を照らし、寒冷の世界にわずかばかりの穏やかさを供給する。
しかし、岩崎にはその穏やかな明かりが頼もしくも微笑ましくも思えなかった。
濃い闇の中、浮かび上がるように道が光っている光景。その道はまるで、黄泉平坂のようだ。
――今から俺はこの道を渡ってあの世に行くのか。
ふと、心に浮かび上がった言葉を岩崎は笑い飛ばせない。冬だというのに、汗が次から次へと噴き出て、そのたびに風が拭った。
――テン、テン。
何かが弾む音。その何かが何を指すのかを、岩崎は見なくても理解できる。
「こんばんは、お兄ちゃん」
淡く期待をしていた。ここに来れば助かるんじゃないか、すべてが夢なのだ、と。
岩崎は、顔を歪ませたが、すぐに魂の抜けた表情になり、声の聞こえたほうを見た。
「は、はは」
皮肉にもほどがある。少女は、参道の左側、一部だけ焼けたご神木の下に佇んでいた。
ああ、まったく怨霊らしからぬ場所にいるものだ。静かにご神木に寄り添うようにいる姿は、不自然なのに自然に見えた。
「なあ、どうしてだ。君はなぜ僕を殺す。鈴ってなんのことだ? これの、これのことか!」
岩崎は、賽銭箱の手前、その場所の上から垂れている縄を手に取り、派手に鈴を鳴らした。
少女は、何も言わず……足音も立てず、ゆっくりと岩崎へと近づく。
「よし、やることは決まった。ひとまず神社に向かう。里香、お前は自宅で待機しておけ……どうした?」
「い、いえ。その、めっちゃ怖い人ですね崎森さんって。あ、スマホ返します」
何を言われたのか分からないが、里香はプルプルと震えていた。
はて? 崎森は基本的にあまり悪口を言うような女ではなかったはずだが。
不思議には思ったが、「ほら、帰りの駄賃をやる。タクシーに乗って家に帰ったらすぐに休め」と千円札を二枚押し付けるように渡し、来世は事務所を後にした。
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寒風吹きすさぶ闇払神社は、ひどく閑散としていた。
玉砂利が敷き詰められた敷地内は夜の帳に包まれ、拝殿が静かに境内を見下ろしている。
岩崎は、賽銭箱の足元に猫のように丸まりながら、虚空を眺めていた。
鳥居からまっすぐに参道が続き、その参道の両脇に石灯篭が等間隔に並ぶ。
石灯篭のほんわりとした柔らかな明かりが参道を照らし、寒冷の世界にわずかばかりの穏やかさを供給する。
しかし、岩崎にはその穏やかな明かりが頼もしくも微笑ましくも思えなかった。
濃い闇の中、浮かび上がるように道が光っている光景。その道はまるで、黄泉平坂のようだ。
――今から俺はこの道を渡ってあの世に行くのか。
ふと、心に浮かび上がった言葉を岩崎は笑い飛ばせない。冬だというのに、汗が次から次へと噴き出て、そのたびに風が拭った。
――テン、テン。
何かが弾む音。その何かが何を指すのかを、岩崎は見なくても理解できる。
「こんばんは、お兄ちゃん」
淡く期待をしていた。ここに来れば助かるんじゃないか、すべてが夢なのだ、と。
岩崎は、顔を歪ませたが、すぐに魂の抜けた表情になり、声の聞こえたほうを見た。
「は、はは」
皮肉にもほどがある。少女は、参道の左側、一部だけ焼けたご神木の下に佇んでいた。
ああ、まったく怨霊らしからぬ場所にいるものだ。静かにご神木に寄り添うようにいる姿は、不自然なのに自然に見えた。
「なあ、どうしてだ。君はなぜ僕を殺す。鈴ってなんのことだ? これの、これのことか!」
岩崎は、賽銭箱の手前、その場所の上から垂れている縄を手に取り、派手に鈴を鳴らした。
少女は、何も言わず……足音も立てず、ゆっくりと岩崎へと近づく。