第17話 ケース1 女子高校生失踪事件⑯
文字数 1,200文字
女は手足をばたつかせ、床や来世の身体を叩く。
――離すものか。
来世は、その一念で痛みに耐えた。
その甲斐もあって少しずつ、女の身体から力が抜けていく。来世は、行ける、と確信した。だが、
「うあああ」
予想外の火事場の馬鹿力を発揮した女によって、拘束は解かれてしまう。
「しまった。……ぬう」
かすむ視界と熱を帯びた全身の痛み。それらのシグナルが、活動時間の限界が近いことを来世に告げる。
「お前に分かるものか」
荒く腹の底から吐き出されたような声。来世に女の話を聞いている余裕はない。が、しわが谷底のように深く刻まれるほど、表情を歪めた女の顔が、どこか泣いているように来世には思えた。
(チィ、仕方ない)
来世は、ため息を吐くように言葉をかけた。
「何がだ?」
「私の何が分かる? 蔑まれ、醜さだけでなく、人格さえ否定された苦しみが」
女は自身の身体を抱きしめた。震えた体から水が怯えたように吹き出し、血走った目が蛍光灯の光を浴びて、テラテラと光った。
「私はあいつらに負けずに懸命に生きたんだよ。けどね、駄目だった。駄目だったんだよ。腐ったゴミは、私をゴミと決めつけ、人生を破滅させてくる。だから、奴らを逆に破滅させてやったんだよ。最高だった。
私は、その瞬間本当の人生を手に入れたんだよ。……これは、復讐さ。私の才能を使って、女どもを狂わせてやる。私は罵られた。だから、やり返して何が悪いんだよ」
独りよがりな独白。来世は女を知らない。だからこそ、その独白の意味を察することしかできない。――でも、だからこそ、理解した。この女は、ただ、
「道を外してしまっただけだ、お前は」
「偉そうに、何を」
「俺の目を見ろ。俺は、初めから世界に弾かれた存在だ。先天的な除け者と後天的な除け者。お前と俺の違いはそれだけだ。……一つ除け者の先輩として遅すぎるアドバイスをやる。除け者の世界にだって、ルールはある。それは、やったらやり返される、ということだ」
女は眉を顰める。
来世は、長く息を吐き、良く通る声で語った。
「お前はやり過ぎたんだ。洗脳した女どもの中に、とある大物政治家の娘がいた。そいつの親御さんの願いは、犯人を死が生ぬるいほど、恐ろしい目にあわせてほしい、だそうだ。
――ああ、だが困ったものだ。俺は、殺しはしない。死より恐ろしい目にどうあわせれば良んだろうな? ……はあ」
一拍置き、来世は感情が抜けた声で言った。
「けど、悲しいことに。俺は、相手を殺さずに恐ろしい目にあわせてやれる。いや、罰を与えてやれる、かな」
女は、息をのんだ。来世の両目が、青から黄金色に変化し、天秤のような模様が浮かび上がってきたからだ。天秤は、鮮明に赤い色をしている。だからだろうか、女は「血のようだ」と恐ろしげにつぶやいた。
――離すものか。
来世は、その一念で痛みに耐えた。
その甲斐もあって少しずつ、女の身体から力が抜けていく。来世は、行ける、と確信した。だが、
「うあああ」
予想外の火事場の馬鹿力を発揮した女によって、拘束は解かれてしまう。
「しまった。……ぬう」
かすむ視界と熱を帯びた全身の痛み。それらのシグナルが、活動時間の限界が近いことを来世に告げる。
「お前に分かるものか」
荒く腹の底から吐き出されたような声。来世に女の話を聞いている余裕はない。が、しわが谷底のように深く刻まれるほど、表情を歪めた女の顔が、どこか泣いているように来世には思えた。
(チィ、仕方ない)
来世は、ため息を吐くように言葉をかけた。
「何がだ?」
「私の何が分かる? 蔑まれ、醜さだけでなく、人格さえ否定された苦しみが」
女は自身の身体を抱きしめた。震えた体から水が怯えたように吹き出し、血走った目が蛍光灯の光を浴びて、テラテラと光った。
「私はあいつらに負けずに懸命に生きたんだよ。けどね、駄目だった。駄目だったんだよ。腐ったゴミは、私をゴミと決めつけ、人生を破滅させてくる。だから、奴らを逆に破滅させてやったんだよ。最高だった。
私は、その瞬間本当の人生を手に入れたんだよ。……これは、復讐さ。私の才能を使って、女どもを狂わせてやる。私は罵られた。だから、やり返して何が悪いんだよ」
独りよがりな独白。来世は女を知らない。だからこそ、その独白の意味を察することしかできない。――でも、だからこそ、理解した。この女は、ただ、
「道を外してしまっただけだ、お前は」
「偉そうに、何を」
「俺の目を見ろ。俺は、初めから世界に弾かれた存在だ。先天的な除け者と後天的な除け者。お前と俺の違いはそれだけだ。……一つ除け者の先輩として遅すぎるアドバイスをやる。除け者の世界にだって、ルールはある。それは、やったらやり返される、ということだ」
女は眉を顰める。
来世は、長く息を吐き、良く通る声で語った。
「お前はやり過ぎたんだ。洗脳した女どもの中に、とある大物政治家の娘がいた。そいつの親御さんの願いは、犯人を死が生ぬるいほど、恐ろしい目にあわせてほしい、だそうだ。
――ああ、だが困ったものだ。俺は、殺しはしない。死より恐ろしい目にどうあわせれば良んだろうな? ……はあ」
一拍置き、来世は感情が抜けた声で言った。
「けど、悲しいことに。俺は、相手を殺さずに恐ろしい目にあわせてやれる。いや、罰を与えてやれる、かな」
女は、息をのんだ。来世の両目が、青から黄金色に変化し、天秤のような模様が浮かび上がってきたからだ。天秤は、鮮明に赤い色をしている。だからだろうか、女は「血のようだ」と恐ろしげにつぶやいた。