第67話 ケース3 春、去り際に燃ゆる想い⑤
文字数 1,080文字
「お前、びっくりしたのは分かるが、手汗を掻きすぎだ。気色悪い、手を放すぞ」
「お、乙女に気色悪いとか言わないでください」
パッと、来世の手が離れる。頬を膨らませていた里香は、名残惜しそうに開いたり、閉じたりを繰り返した。
しだれは、里香を見てにっこりと微笑む。
「うむ、良きかな」
「何がだ?」
「いやいや、ワシが言うことでもないさ。それで、さっそく探してくれるのか?」
来世は、表情を曇らせた。
「いや、そうしたいところはやまやまだが。先に受けていた依頼の達成期限が迫っている。そっちを優先させてもらうから、しばらく事務所で待機してくれ。里香、案内を」
はい、と頷く里香が、溢れんばかりの笑顔でしだれに手を差し出した。
だが、しだれは首を振って辞退する。
「良ければ、手伝おうぞ。さっきの男を捕まれば良いのだろう?」
「それはそうだが、依頼人に手伝わすなど」
「なに、ワシにとっても利益のある話だ。依頼が早く片付けば、ワシの依頼が早く済むじゃろう。こういうの人間は、臨機応変にって表現するじゃろ。クハハ、なーに、報酬は『より頑張る』で結構じゃよ。死ぬ気で頑張ってくれるなら、全力で手伝おう」
屈託なく笑うしだれ。
肩をすくめた来世は、鼻を鳴らす。
「全く、人間と初めて話してすぐに、ネゴシエーションか? なかなか適応力が高いじゃないか。よし、良いだろう。せっかくだ、木霊の力を貸してもらおうか。何ができる?」
「何がか。……お、そうじゃ。ワシは人間以外の生物と会話ができるぞ。お主の魔眼のように、明確な意思がない者でも、何となくじゃが言いたいことが分かる」
「なに、本当か! 人外疎通の魔眼の上位能力だぞ。……そんなことが、いや、餅は餅屋ってやつか」
「餅は餅屋かー。お腹すきましたね」
がっくり、と来世の力が抜けた。
「お前は、事務所に戻って飯でも食ってろ。ああ、あまり期待はしないが、幸子と一緒に、しだれの探し人調査を進めておけ」
「なるほど、分担作業ですね。オーケーラジャー」
里香は、溌剌と走っていく。
来世はあきれ顔で、しだれは柔らかに笑った。
「ありゃ、将来良い嫁さんになるな。生気に満ちた若葉は、周りを元気にする」
「ふん、どうだかな。ドジで間抜けな嫁なぞ、人様に迷惑をかけるだけだ」
にやり、としだれの笑みが人の悪いものに変化する。
「じゃあ、お主がもらってはどうじゃ?」
「冗談だろ? あんな嫁はいらん。ただでさえ頭と胃が痛むんだ。嫁になった瞬間、俺の臓物は溶けてしまうだろう」
「ほーう。溶けるとな。そりゃ、ホラーじゃな」
ふん、違いないと来世は笑い、釣られてしだれも笑った。
「お、乙女に気色悪いとか言わないでください」
パッと、来世の手が離れる。頬を膨らませていた里香は、名残惜しそうに開いたり、閉じたりを繰り返した。
しだれは、里香を見てにっこりと微笑む。
「うむ、良きかな」
「何がだ?」
「いやいや、ワシが言うことでもないさ。それで、さっそく探してくれるのか?」
来世は、表情を曇らせた。
「いや、そうしたいところはやまやまだが。先に受けていた依頼の達成期限が迫っている。そっちを優先させてもらうから、しばらく事務所で待機してくれ。里香、案内を」
はい、と頷く里香が、溢れんばかりの笑顔でしだれに手を差し出した。
だが、しだれは首を振って辞退する。
「良ければ、手伝おうぞ。さっきの男を捕まれば良いのだろう?」
「それはそうだが、依頼人に手伝わすなど」
「なに、ワシにとっても利益のある話だ。依頼が早く片付けば、ワシの依頼が早く済むじゃろう。こういうの人間は、臨機応変にって表現するじゃろ。クハハ、なーに、報酬は『より頑張る』で結構じゃよ。死ぬ気で頑張ってくれるなら、全力で手伝おう」
屈託なく笑うしだれ。
肩をすくめた来世は、鼻を鳴らす。
「全く、人間と初めて話してすぐに、ネゴシエーションか? なかなか適応力が高いじゃないか。よし、良いだろう。せっかくだ、木霊の力を貸してもらおうか。何ができる?」
「何がか。……お、そうじゃ。ワシは人間以外の生物と会話ができるぞ。お主の魔眼のように、明確な意思がない者でも、何となくじゃが言いたいことが分かる」
「なに、本当か! 人外疎通の魔眼の上位能力だぞ。……そんなことが、いや、餅は餅屋ってやつか」
「餅は餅屋かー。お腹すきましたね」
がっくり、と来世の力が抜けた。
「お前は、事務所に戻って飯でも食ってろ。ああ、あまり期待はしないが、幸子と一緒に、しだれの探し人調査を進めておけ」
「なるほど、分担作業ですね。オーケーラジャー」
里香は、溌剌と走っていく。
来世はあきれ顔で、しだれは柔らかに笑った。
「ありゃ、将来良い嫁さんになるな。生気に満ちた若葉は、周りを元気にする」
「ふん、どうだかな。ドジで間抜けな嫁なぞ、人様に迷惑をかけるだけだ」
にやり、としだれの笑みが人の悪いものに変化する。
「じゃあ、お主がもらってはどうじゃ?」
「冗談だろ? あんな嫁はいらん。ただでさえ頭と胃が痛むんだ。嫁になった瞬間、俺の臓物は溶けてしまうだろう」
「ほーう。溶けるとな。そりゃ、ホラーじゃな」
ふん、違いないと来世は笑い、釣られてしだれも笑った。