第13話 ケース1 女子高校生失踪事件⑫

文字数 979文字

「解放の魔眼か……まあまあ当たりだな。おい、お前ら俺の目を見ろ。幸福の精霊とやらが、空虚な存在であることを教えてやる」



 ――幻想は鎖。お前らを縛る呪い。

 重く、空間を支配するような来世さんの声が響く。

 ――幻想はそこにある。だが、所詮は認識の世界。お前らがないものと認識すれば、実体はなく、幻想は幻想へと帰る。

 女の子たちが、一斉に来世さんの目を見た。

 ――幻想は幻想へ、現実は現実へ。あるべきところへ戻るが定め。我が目は鎖を解くカギ。目を見ろ、凝視しろ。鍵を渡そう。

 青い目の輝きが増す。星が、地上へ降りてきたみたいに、その存在は圧倒的で、けど暖かくて、目を逸らすことができない。

――もう、帰ろう。幸せはどこにある? 幸せは、特別じゃなく普遍的に存在するもの。家族を想え、友を想え、恋人を想え。人生がどうしようもなく残酷であっても、幸せは幻想ではなく、空気と同じようにそこにある。掴め、君たちの手は動くだろう? この目が、元に戻る手伝いをしよう。さあ、どうぞ、手を取って。

 甘くとろけるような声は、身体の外から内側に染みるように侵食し、心を捉えて離さない。

 ……ああ、なんだか羽が生えたみたい。青い光が解き放たれ、私たちを浄化するように駆け抜けていく。

 その瞬間、頭をよぎったイメージに苦笑する。だって、そうじゃない? 青空へ羽ばたく鳥のイメージがしたなんて、ちょっと少女チックすぎかなって。

「あれ、私、なんで?」

 隣で、聞き慣れた声が聞こえた。横を振りむくと、きょとんとした様子の冷夏がいる。

「ここどこ? え、里香、あんた泣いてんの?」

 暖かい涙が、頬を伝う。数日会っていなかっただけなのに、もう何年も会っていないような気がする。私は、冷夏に飛びつき、抱きしめた。……シトラス系の香水の匂いがする。

 これ、一緒に遊びに行った時の香水だ。微妙とか言ってたくせに、意外と気に入ってるんじゃない。

「おい、無事か」

「あ、来世さん。凄いですよ、何ですかその力って!」

「あー、あの時のお兄さんじゃん! ちょっと、どいて。私、冷夏って言います。趣味は映画観賞なんですけど、興味あります? お兄さん」

 こ、この女。私を地面に投げ捨てやがった。猫なで声が腹立つ。……へへ、でもいつもの彼女だ。
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