新たな火種

文字数 1,971文字

 郊外の廃工場周辺の調査に出ていた瀬戸と望月は中心街へと戻っていた。
 双方向自動制御運転が可能になる幹線道路まで戻った所で、望月は息を吐いた。
「さっきの所、心霊スポットなんて呼ばれてる場所だったけど、エルフさんにはどう見えた?」
「確かに、廃棄物の再生工場で、出所不明のガラクタを扱ってたっていう経緯はちょっと薄気味悪いし、草木の手入れが全くされてないから野生動物がそこら中に居て、いきなり飛び出してくるのは怖いと思うけど……人間の出した廃棄物はもう無いし、真実を見る事の出来ない人間が騒いでいるだけね」
「で、肝心のオークは居ると思う?」
「貴方は?」
 望月はちらと助手席の瀬戸を見た。
「居ても不思議は無いと思うよ。餌になるネズミは沢山居そうだし、ツキノワグマも居るんだっけ?」
「そうね。それに、中には機械が残っている……イティメノスが居れば金属を削って何か作るかもしれないし、そうなると厄介よ。彼等が作り出すのは、往々にして危ない物ばかりなんだから」
「そっか……」
 瀬戸は眉を顰め、代わり場の市内者層を見遣る。
「山の中に連絡通路(ワープホール)が有るのかもしれないけど、それを探し出すのは私達だけじゃ無理だし……向こう《エザフォス》から光の民(フォスコイノス)の傭兵部隊でも雇って、何日か野営しながら探すしかなさそうね」
「予算下りるかな」
「下ろさせるしかないわ。見つけた後の始末に関しちゃ、つながってる先の国にお任せだけど……満月が重なるまでにどうにかなる気は、あまりしないわね」
 望月は溜息を吐く様に言って黙り込む。
「それはそうと、お昼どうするの?」
「戻った頃にはランチタイムも終わりでしょうし、中華のテイクアウトでもして、報告会の合間に食べちゃいましょう」
「珍しいね、中華のテイクアウトなんて」
「エビの中華風フリッターが美味しいお店があるって聞いたの。デザートもあるから、お昼ついでにお茶も出来るし……胡麻団子と杏仁豆腐は余分に買って、醍醐さんにあげましょう」
「そうだね……」
 呆れた様に言って、瀬戸は狭い車窓の空を見上げた。
 天野が何をしたのかは、当日現場に出ていなかった瀬戸も聞き及んでいる。
「で、いざあそこに入るとなった時、あのボンクラも同行させるつもり?」
「留守番をさせても、余計な仕事を引き受けて面倒を増やすだけよ。幹線道路なら自動運転になるし、運転手くらいにはなるはずよ」

 昼食というには遅い時刻、望月と瀬戸が休憩室で中華総菜を広げていると、武寿賀がやってきた。
「あれは……」
 武寿賀は黒い狼を連れた黒髪の男を伴い、窓際の席へと向かう。
 瀬戸は怪訝に眉を寄せた。
「……ねえ、あれ、絶対に犬じゃないよね」
「えぇ、犬じゃないわ。犬っぽいところを見ると、魔狼(マギアリコス)だと思うけど」
 黒髪の男は手綱を椅子にくくり、狼は伏せるとそのまま寝てしまった。
「話は渡航管理係から聞きましたけど……あの鬱蒼とした森に出てきたのは、中つ(アステクシア)の北の静寂の森(ヘシソダス)からで間違いありませんね」
「あぁ、静寂の森(ヘシソダス)の狩人小屋の北にある湧き水の池の西側のほとりだ」
「オークの気配は有りましたか」
「少なくとも森の南から狩人小屋までの範囲には無かった。出てきているとすれば、森の北にある最果ての岩山の坑道だろう。あそこは冬の冷え込みが酷過ぎて、秋の終わりにドワーフが出て行っちまうからな……去年の収穫が少ない分、オークどもは行動範囲を広げてるだろうし、ミスリルを使うドワーフが居ない間に岩陰から出てきたのかもしれねぇよ」
「それで、こちらに出てきて、何か目印になる様な物を見かけましたか」
「あー……方角が今ひとつ分らんのだが、鉄を編んで作った様な、やぐらみたいな物は有ったな」
「おそらく、電波塔か鉄塔……意図的に発生させた雷の力を機会に流す為、鉄の線を張り巡らせて力を流している施設か、意図的に発生させた雷の力と大地の力を使って、情報の伝達を行う時に使う設備でしょう。それで、その鉄のやぐらから、どのくらい歩きましたか?」
「一晩と少しだ。物見やぐらの様な物が有るとすれば、近くに何かしらの種族が居るだろうと思って家を探したが、素焼きの土で作った様な壁の建物が有っただけで、何も居なくてな……ただ、三和土(たたき)の様な舗装がされた道があったんで、それを辿って歩いていたんだ」
 武寿賀は、彼が見つけたのは電気設備課通信設備の管理施設だろうと理解する。そして、彼はその施設へと向かう参道に出たのだろうと推測した。
「それで、地球人に見つかった、と」
「ああ」
 遠巻きに話を聞いていた望月と瀬戸は、顔を見合わせる。
 これからが大変だろう、と。
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