同じ星を見上げれば

文字数 991文字

 奥多摩の森の中から見上げた空には、無数の星が煌めいていた。
 その星の煌めきの向こうにあるアポロニア銀河に思いを馳せながら、天野はエザフォスへと帰ったエルフ達の事を思い出す。
 彼等が地球にやってきたのは、地球に降り注いだ、この星にはありえないはずの災厄を払う為だったのだろうか、と。
 ただ、ありえないはずのものは、もう一つ残っている。彼は武寿賀から最後にそれを聞かされていた。
 高木春花がすぐ傍に居た災厄の脅威だとしたら、醍醐桜はすぐ傍に居た不思議な存在だったのだ。
 ――草薙(くさかり)さんは悲しみと苦しみを、高木さんは怒りと憎しみを、それぞれに与えられてしまったのでしょう。だとしたら、醍醐さんは喜びと希望だと、私は信じていますよ。
「喜びと希望、か……」
 吉備津室長と武寿賀係長の辞職、そして調査係の解散という大きな事件の直後、醍醐は育ての親である吉備津の元を離れ、白銀が暮らしていた古民家に隠居を決めた武寿賀の家で暫く過ごすと言って東京を出た。
 東京に残った天野は奥多摩の運動公園で指導員の肩書の元、子供達の監督や施設の整備に当たっていた。其処は東京でも有数の僻地ながら、亜人にまつわる情報は集約される場所で、警察を辞めた白石と黒井が新しく立ち上げられた亜人専門の警備会社に勤めているらしいという事や、同じく退職した瀬戸が八王子にある剣術の道場に居るという話を聞く事になった。吉備津がその後どうしているのかは分からなかったが、ほとぼりが冷めた頃に、適当なコンサルティング会社にでもスカウトされるのではないかと彼の上司は言った。そして、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)の事件で店を畳んでいた鵺田が原宿に新しい店を開くらしいという事も、そうした中で知る事となった。
「どうしているのかな……」
 連絡先を知らないわけではないが、特に連絡をする理由も見つからず、今ではほとんどなる事の無くなったスマートフォンを手に取り、天野はその画面を開く。
「え……」
 一通のメールの着信に、彼は目を瞠った。
 文面には何も記されていなかったが、一枚の写真が添付されていた。
 其処に写されていたのは、満天の星空。第五が見上げた夜空だった。
 天野は今日が宿泊研修の火でよかったと、眠れない宿直の疲れも忘れ、研修棟の屋上から見える奥多摩の星空を写真に収めて送り返した。
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