危ない旅ならさせたくない

文字数 1,714文字

 シネーティアウスとプロイアスが馬を駆っていると、反対方向からパゲートスの馬が走ってくるのが見え、シネーティアウスは馬を止め、プロイアスがそれに続く。
 二人が馬を止めた場所まで来て、パゲートスも馬を止めた。
「どうかされました、エクシプノス殿」
「どうもこうも、緑の島(プラシニシー)の館にアネールらしき死体がありまして、侵入者にしては様子がおかしいのですよ」
「どんな状態だった」
「オークではないのに、肌は青白いを通り越して灰色、疫病を疑う(そう)はなく、青年らしき体格だが頭髪がまばらで、どうも自生している雛芥子(ひなげし)を口にしたのが悪かったようなのだが……少し向こうの畑には、食用の野菜を植えているというのに、そんな物を」
「まさか……」
 シネーティアウスの後ろで、プロイアスが呟いた。
「エクシプノス殿、実は、星見岬(カエヴィデラ)の地下牢から、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)が逃げ出したとの事……それで、その死体は」
「ニフテリザの巣がある黒岩島(マヴヴォラホシー)に運びました。検分は其処で」
「ひとまず、そちらの館に向かってもよろしいか」
「えぇ」
 パゲートスは来た道を引き返した。

 三人はプラティーナの館でそれぞれに起こった事を話し合った。
 そして導き出された結論は、プラシニシーの館で見つかった死体はプロイアスが伝えた星見岬(カエヴィデラ)で獄中に隔離されていた不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)の依り代だという事。加えて、既に青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)が流れ着いた可能性がある事。
「モニミアネから伝え聞いたが、兄上の配下には青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)で生まれたニンフが居るらしい」
 シネーティアウスとプロイアスは目を見開いた。
「そのニンフが生まれたのが今から二十五年前……冥王との衝突が起こった頃だ」
 パゲートスの言葉に二人は納得した。地球とエザフォス星に連絡通路(ワープホール)が生じたきっかけである、小惑星ハーデスとデメテール星の衝突で発生したその破片は、長い年月を経ても宇宙空間に残っている。
「もしかして、ハーデスの欠片が青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に落ちて、何か異変が起こったという事ですか?」
「そうだ……もしかすると、先頃青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に起こったエフィアルティースはそれに由来しているのかもしれない……依り代が逃げ出したのが遅くとも三ヶ月前で、イーリクイニアが見つけた死体はまだかなり新しい物……普通の肉体にしても死後三日も経っておらぬものだというのなら、まだ、あの死体に取り憑いていたものが青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に渡ったとは言い切れない」
「そうか……でも、二十五年も経って、今更出てきますかね、アレが……」
「あまり考えたくないですが、同じ様に脱獄した不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)が居るとしたら、話は別です」
 プロイアスは暫く考え込み、顔を上げた。
「父上、エクシプノス殿……私を青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に遣わしてはくれませんか?」
 パゲートスとシネーティアウスは顔を見合わせる。
諸悪の化身(エフィアルティース)の災厄が起こったのが、今、モニミアネ様の居られる場所というのなら……調べられませんかね」
 パゲートスはしばらく考え込んだ後、少し待って居なさいと席を立った。
 そして、便箋を持って戻ってきた。
「渡航管理の官吏に事情を説明しよう。脱獄はこちら側の問題でもある……それと、今、オーク討伐に向けて動いている北の領主殿から話を通した方が早いだろう。その旨も伝えよう」
 プロイアスはパゲートスを凝視した。
 そんなプロイアスに、シネーティアウスは耳打ちする。
「こうなった以上、責任は倍だぞ」
 プロイアスは父であるシネーティアウスを見遣る。
「今、モニミアネ殿が居られるのは穢れに覆われた場所と言えなくもない……お前がかつて過ごしていた山間の屋敷とは全く違うのだからな」
 プロイアスは息を呑んだ。
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