毒舌ニンフと鈍感男子
文字数 1,666文字
正午を過ぎた頃、永田町にある雑居ビルに入るイタリアン・レストランは賑わっていた。
天野は醍醐と二人、散歩というには少し長い様な距離を歩いてその店に辿り着き、店の中を見回して違和感を覚えた。
レンガ調の床と木目調の壁に、開放的な窓が填められている店内には、多数の観葉植物が目隠しの様に設置されているのだ。客席のテーブルの間にも衝立が置かれているが、簡易的な壁を模したそれにも、メニューを入れたカード立てやポップスタンド、小さな鉢植えなどが配置され、客同士の姿が見えない様になっている。
席が予約されている二階も同じ様な設えで、賑わっているはずなのに客の姿がはっきりとは見えない様子に、天野は違和感を感じていた。二人が案内されたのはその奥にあるテーブルで、四人掛けの席が隣り合っている場所だった。周囲は衝立と観葉植物で囲まれているが、不自然な隙間があり、二つの席を隔てていた物がかわされている様子だった。
醍醐は窓側の席へと進み、天野に隣へ座る様に促す。天野はやはり席次としてはおかしいと思いながらも、黙って醍醐の隣に腰を下ろした。
「此処、随分目隠しが利いている様ですけど……政治家先生御用達ですか?」
鉢植えにしてはやや背の高い植物に目隠しされた窓を見て、天野は何気ない風に、向かいに座る風見に問い掛ける。
「いや、此処に政治家先生は来ないぜ。なんたって、お偉いさん達は俺達みたいなのを嫌うからな」
天野が首を傾げると、斜向かいの瀬戸が呆れた様に天野を見遣って口を開いた。
「此処のオーナーはニフテリザで、基本的に同類が働いてるんだよ。階下 はパーラーメイドよろしく、見た目も評判もいいニンフやエルフの女の子を置いてるけど、階上 と厨房の中はニフテリザみたいな有翼人 や獣人 が殆どだし、この上にあるお店も、基本的に有翼人 や獣人 のお店だよ」
「そう、ですか……」
瀬戸は天野には興味が無い様子で、鉢植えの隙間から外へと視線を向ける。
程無くして草薙を連れた武寿賀も姿を現し、一対の黒い猫耳を持ったウェイトレスがやって来て、まずは前菜のサラダを持ってくると告げる。
「あれ……望月さんは?」
「そろそろ来るんじゃないかな。注文は彼女に任せてあるからな」
風見の言葉に首を傾げる天野に、瀬戸は肩を竦めた。
「厨房は階下 なんだから、そのくらい分からないと、仕事出来ないよ?」
天野は思わず目を伏せた。
少しの間を置いて、前菜のサラダボウルが運ばれてくるとほぼ同時に、望月は席に着いた。
「あれ……お冷がひとつ多いですけど……どなたか遅れて来られるんですか?」
サラダボウルは人数分しか運ばれていないが、冷水の入ったグラスは武寿賀のとなり、空席の場所にも置かれていた。
「君、察しが悪い割には目ざといんだね」
答えるよりも先に、瀬戸の冷ややかな言葉が天野に向けられる。
「瀬戸さん、あんまりいじめないであげて。今人手不足になるのは面倒よ?」
望月は肩を竦めて見せるが、瀬戸は意に介さない。
「此処は私達にとってただのレストラン以上の意味がある場所よ。天野さんも、よく覚えておいて」
望月の言葉に、天野は曖昧に頷いた。そして、望月は自分も洒落たサラダボウルに手を付けようとして、ある事が違うと気付く。
「あれ……獲夢 ちゃん、サラダ、全部食べるの?」
「うん、今日は頑張って全部食べるよ!」
天野が半ば無意識に首を傾げると、隣の醍醐が呟いた。
「獲夢ちゃん、猫 獣人 だし、野菜は嫌いなの……でも、急にどうしたのかしら……」
醍醐もよく分からないといった様子で首を傾げている。
「うーん……やっぱ、こう、健康志向なのかな……ほら、猫だって、猫草食べたりとか、繊維質を取らないと駄目ですし」
「そういう事なのかなぁ……」
言いながら、それでも不思議そうに、醍醐はサラダボウルの千切りキャベツを軽くかき混ぜた。
天野は醍醐と二人、散歩というには少し長い様な距離を歩いてその店に辿り着き、店の中を見回して違和感を覚えた。
レンガ調の床と木目調の壁に、開放的な窓が填められている店内には、多数の観葉植物が目隠しの様に設置されているのだ。客席のテーブルの間にも衝立が置かれているが、簡易的な壁を模したそれにも、メニューを入れたカード立てやポップスタンド、小さな鉢植えなどが配置され、客同士の姿が見えない様になっている。
席が予約されている二階も同じ様な設えで、賑わっているはずなのに客の姿がはっきりとは見えない様子に、天野は違和感を感じていた。二人が案内されたのはその奥にあるテーブルで、四人掛けの席が隣り合っている場所だった。周囲は衝立と観葉植物で囲まれているが、不自然な隙間があり、二つの席を隔てていた物がかわされている様子だった。
醍醐は窓側の席へと進み、天野に隣へ座る様に促す。天野はやはり席次としてはおかしいと思いながらも、黙って醍醐の隣に腰を下ろした。
「此処、随分目隠しが利いている様ですけど……政治家先生御用達ですか?」
鉢植えにしてはやや背の高い植物に目隠しされた窓を見て、天野は何気ない風に、向かいに座る風見に問い掛ける。
「いや、此処に政治家先生は来ないぜ。なんたって、お偉いさん達は俺達みたいなのを嫌うからな」
天野が首を傾げると、斜向かいの瀬戸が呆れた様に天野を見遣って口を開いた。
「此処のオーナーはニフテリザで、基本的に同類が働いてるんだよ。
「そう、ですか……」
瀬戸は天野には興味が無い様子で、鉢植えの隙間から外へと視線を向ける。
程無くして草薙を連れた武寿賀も姿を現し、一対の黒い猫耳を持ったウェイトレスがやって来て、まずは前菜のサラダを持ってくると告げる。
「あれ……望月さんは?」
「そろそろ来るんじゃないかな。注文は彼女に任せてあるからな」
風見の言葉に首を傾げる天野に、瀬戸は肩を竦めた。
「厨房は
天野は思わず目を伏せた。
少しの間を置いて、前菜のサラダボウルが運ばれてくるとほぼ同時に、望月は席に着いた。
「あれ……お冷がひとつ多いですけど……どなたか遅れて来られるんですか?」
サラダボウルは人数分しか運ばれていないが、冷水の入ったグラスは武寿賀のとなり、空席の場所にも置かれていた。
「君、察しが悪い割には目ざといんだね」
答えるよりも先に、瀬戸の冷ややかな言葉が天野に向けられる。
「瀬戸さん、あんまりいじめないであげて。今人手不足になるのは面倒よ?」
望月は肩を竦めて見せるが、瀬戸は意に介さない。
「此処は私達にとってただのレストラン以上の意味がある場所よ。天野さんも、よく覚えておいて」
望月の言葉に、天野は曖昧に頷いた。そして、望月は自分も洒落たサラダボウルに手を付けようとして、ある事が違うと気付く。
「あれ……
「うん、今日は頑張って全部食べるよ!」
天野が半ば無意識に首を傾げると、隣の醍醐が呟いた。
「獲夢ちゃん、
醍醐もよく分からないといった様子で首を傾げている。
「うーん……やっぱ、こう、健康志向なのかな……ほら、猫だって、猫草食べたりとか、繊維質を取らないと駄目ですし」
「そういう事なのかなぁ……」
言いながら、それでも不思議そうに、醍醐はサラダボウルの千切りキャベツを軽くかき混ぜた。