餅は餅屋の正攻法

文字数 1,168文字

「地球人にもそれだけの調査能力が十分にあるって事だけは感心するわね」
 潰れた卵にまみれて戻ってきた天野を前に、白銀は肩を竦めた。
「それで、その人達、ちゃんと捕まってるんでしょうね」
「それが……」
 天野は肩を落とし、卵を投げつけた事は事実であっても、誰が投げたかが分からない以上現行犯逮捕は出来ないとして誰一人身柄を拘束されないまま、群衆は解散したと告げる。
「警察のやる気の無さがよく分かるわね……確かに、私は別の星から来たから差別されても同情されないかもしれないけれど……天野さんも醍醐さんもこの星の生まれだし、天野さんは半分人間だと言うのに」
「しかも、適当に集まった群衆が都合よく卵を持っているわけなんて無いんだから、明らかに二人を狙った攻撃だよな」
 机の端で頬杖をついていた明星は眉を顰める。
「……地球人がこう腐っているから、罪の化身(アマティーア)が勢いづいて暴れるんだろうに」
 白銀も眉根を寄せ、溜息を吐いた。
「……あの、白銀さん」
 こびりつく卵をぬぐっていた天野は、神妙に白銀を見た。
「白銀さんって、ずっと剣術道場に居たんですよね」
「えぇ」
「だったら……僕に刀の使い方を教えてくれませんか?」
「は?」
 白銀は表情を歪ませる。
「なんでもなく歩いているだけで、こんな風に襲われてたんじゃ、体がいくつあっても足りません……一応、県警に居た頃、多少のけいこは受けているんですけど、その」
「止めておきなさい」
 呆れた様に言い放ち、白銀は再び溜息を吐いた。
「刀が使えたところで、地球人相手に抜けるわけもないし、そもそも、貴方は地球の官吏に過ぎなかった……自分よりも力の無い醍醐さんが相棒だからって、背伸びするものじゃないわ」
「でも」
「刀を抜くのは私の仕事で、貴方は帳面を読み書きするのが仕事でしょ」
「でも僕だって此処の捜査官の」
「役に立ちたいっていうんだったら、私に力を貸してくれればそれでいい。いくら地球人の混血だからって、そんなに生き急ぐものじゃないわよ」
 白銀は銀色の御髪を翻し、執務室から出て行った。
 途方に暮れた様に天野が溜息を吐くと、明星が口を開いた。
「彼女の言うとおり、地球人相手に刀を抜くことはきっと許してもらえない。しかし……帳面を読み書きする以外にも、たとえ半分とは言え、地球人である貴方にしか出来ない事があるんじゃないのか?」
「僕にしか……」
「俺はこの星の事を十分に知らないし、彼女だって、長く此処に居る様でいて、この星の民にさしたる関心が有るわけではない……ただ歩いているだけでそんな目に遭わないための手立てを考える事も、そうじゃないのか」
 天野は眉根を寄せた。
「……室長の所に、行ってきます」
 卵まみれの上着を残したまま、天野は執務室を後にした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み