正義の所在
文字数 1,432文字
オークの掃討に成功し、一同は胸を撫でおろしていた。
特別機動隊が撤収し、調査係は鑑識の到着を前に、イティメノスが灰になった場所に目印を据えていた。
「イティメノスって、灰になるんですね……」
ぬるい風に灰の山さえも消え、小刀が落ちていた所へマーカーを設置するしかない状況は、天野にとって酷く重苦しい物だった。
人間なら、その場で焼かれて炭化し、灰になってしまったも同じなのだから。
天野が小刀と灰の残影を見つめていると、反対方向を調査していた醍醐が戻ってきた。
「もう有りませんでしたか?」
「はい、これで全部ですね……それにしても、すごいですね。あんなに大きな生き物を灰にするなんて」
「そう……ですね」
天野の様に感傷的になった様子も無く、醍醐は光る小刀を見つめていた。
「エルフの道具、本当に嫌いなんでしょうね、オークって」
「え……」
思いがけない言葉に、天野は醍醐を見遣る。
「エピスタニスおじいちゃんが言ってました。この小刀は、エルフが作った特別な小刀で、光の魔法で闇に染まったオークを浄化するって」
天野は眉を顰め、小刀を見遣る。
同族を殺すために、魔法の道具まで作ったのか、と。
そんな矢先だった。生臭く生ぬるい、黒い風が吹いたのは。
「いやぁ!」
鈍い音と共に、醍醐は押し倒された。
一瞬の出来事に、天野は顔を上げたがその光景を理解出来ていなかった。
彼の目の前に居たのは、魔狼 に乗ったオーク。それも、湿った灰色の肌を持った、イティメノス。
「オマ、エラ、カ」
獣が人語を発する様なおぞましい響きに、天野は息を呑む。
「ワガ、イチダン、ヲ、コロシ、タ、ノ、ハ」
魔狼 が咆哮すると同時に、イティメノスは黒々とした刃を引き抜いた。
「ワガ、イチダン、ノ、カタ、キ」
魔狼 は前足を上げ、イティメノスは剣の切っ先を倒れた醍醐に向ける。
「や、やめろ!」
「ダマ、レ」
唸り声を上げた魔狼 が頭を大きく振り、イティメノスを乗せたまま天野に体当たりをくらわす。
「うわっ……」
「オマ、エラ、モロ、ト、モ、コロ、ス」
イティメノスは手綱を引き、恐怖で動けない醍醐に再び切っ先を向けた。
イティメノスの残骸の上に突き飛ばされた天野はその左手の指に冷たい感触を覚え、目を向ける。
「う……」
天野の声に、イティメノスの視線が動いた。
その瞬間、天野の咆哮が響き、生々しく小刀の突き刺さる湿った音が立った。
天野は矢城が投げつけたまま証拠品として放置されていたそれを握りしめ、イティメノスに飛び掛かったのだ。
激昂と苦痛にイティメノスは咆哮する。恐れをなした魔狼 はイティメノスを放り出して走り去る。
天野の絶叫に呼応して駆けつけた風見はすぐに状況を理解し、走り去る魔狼 を追撃すべく舞い上がる。
「オノ、レ……オノ……」
イティメノスは倒れるまま、その体を灰に変えてゆく。
草薙が遅れて現場にやってきた時には、もはや動ける状態ではなかった。
「さくらちゃん、あまのん、大丈夫?」
醍醐は押し倒されて立ち上がれずに座り込んだまま、天野は魔狼 が走り去る勢いに弾き飛ばされたまま、苦悶の声すら上げられずに少しずつ灰になってゆくイティメノスを呆然と見つめていた。
そして天野は思った。
やってしまった、と。
特別機動隊が撤収し、調査係は鑑識の到着を前に、イティメノスが灰になった場所に目印を据えていた。
「イティメノスって、灰になるんですね……」
ぬるい風に灰の山さえも消え、小刀が落ちていた所へマーカーを設置するしかない状況は、天野にとって酷く重苦しい物だった。
人間なら、その場で焼かれて炭化し、灰になってしまったも同じなのだから。
天野が小刀と灰の残影を見つめていると、反対方向を調査していた醍醐が戻ってきた。
「もう有りませんでしたか?」
「はい、これで全部ですね……それにしても、すごいですね。あんなに大きな生き物を灰にするなんて」
「そう……ですね」
天野の様に感傷的になった様子も無く、醍醐は光る小刀を見つめていた。
「エルフの道具、本当に嫌いなんでしょうね、オークって」
「え……」
思いがけない言葉に、天野は醍醐を見遣る。
「エピスタニスおじいちゃんが言ってました。この小刀は、エルフが作った特別な小刀で、光の魔法で闇に染まったオークを浄化するって」
天野は眉を顰め、小刀を見遣る。
同族を殺すために、魔法の道具まで作ったのか、と。
そんな矢先だった。生臭く生ぬるい、黒い風が吹いたのは。
「いやぁ!」
鈍い音と共に、醍醐は押し倒された。
一瞬の出来事に、天野は顔を上げたがその光景を理解出来ていなかった。
彼の目の前に居たのは、
「オマ、エラ、カ」
獣が人語を発する様なおぞましい響きに、天野は息を呑む。
「ワガ、イチダン、ヲ、コロシ、タ、ノ、ハ」
「ワガ、イチダン、ノ、カタ、キ」
「や、やめろ!」
「ダマ、レ」
唸り声を上げた
「うわっ……」
「オマ、エラ、モロ、ト、モ、コロ、ス」
イティメノスは手綱を引き、恐怖で動けない醍醐に再び切っ先を向けた。
イティメノスの残骸の上に突き飛ばされた天野はその左手の指に冷たい感触を覚え、目を向ける。
「う……」
天野の声に、イティメノスの視線が動いた。
その瞬間、天野の咆哮が響き、生々しく小刀の突き刺さる湿った音が立った。
天野は矢城が投げつけたまま証拠品として放置されていたそれを握りしめ、イティメノスに飛び掛かったのだ。
激昂と苦痛にイティメノスは咆哮する。恐れをなした
天野の絶叫に呼応して駆けつけた風見はすぐに状況を理解し、走り去る
「オノ、レ……オノ……」
イティメノスは倒れるまま、その体を灰に変えてゆく。
草薙が遅れて現場にやってきた時には、もはや動ける状態ではなかった。
「さくらちゃん、あまのん、大丈夫?」
醍醐は押し倒されて立ち上がれずに座り込んだまま、天野は
そして天野は思った。
やってしまった、と。