恐怖のフラッシュモブ

文字数 1,115文字

 不審死事件が発生した近辺で、不審な影の目撃やや怪奇現象が無かったかを調べるべく、天野と醍醐は再び歩いていた。
 現場にほど近いコンビニエンスストアで話を聞くと、仕事を終えたスタッフの一人が話をしたいと言った為、二人はその人物を待った。
 出てきたのは中年の男で、主に日中の時間、店舗の設備やシステムの管理に当たっていると言った。そして、事件が発生する数日前から、正午前後の尤も客足の多い時間に、原因不明のシステムエラーが頻発し、会計時の登録を全て手動で行った日が有ったという。
「その時、何か決まって同じ奇妙な事が起こったりとか、同じお客さんの姿を見たりしましたか?」
「さぁ、それは心当たりがないですねぇ……ただ、冷蔵庫の温度が変動していて、本部の技術者を呼んだ事は有りました」
「どの冷蔵庫が不具合を?」
「デザートの棚ですよ。扉を締め切るわけには行かない棚で、回転早いんですけど、温度が上がると質が落ちると本部がうるさい所で」
「大変でしたね……」
「私が覚えているのはそんなものですけど、お役に立てましたか?」
「えぇ、お疲れのところ、わざわざありがとうございました」
 天野と醍醐は一礼し、事務所を後にする。
「やっぱり、この辺りに、何か良くないものが居たのかしら」
「かもしれないですね……うわっ?」
 二人が通りを進んでいると、突然、天野めがけて何かが飛んできた。
 天野はよろめきながらそれをかわすが、二度、三度と同じものが投げつけられ、醍醐は半ば天野を盾にする。
「ぶふぇっ」
 四度目のそれは天野の顔面に直撃し、それが生卵であったことを彼は知った。
「宇宙人は出ていけー」
 女性の甲高い叫び声に合わせ、周囲に居た人間たちが同じようにシュプレヒコールを上げる。
「お前たちが事件の原因だー」
 シュプレヒコールが繰り返される中、醍醐は天野の陰で非常通話を起動した。
 しかし、非常通話が応援を呼ぶより先に、別件で巡回していた警察官が現場を発見し、卵とプラカードを掲げたシュプレヒコールを主導する女性の肩を掴んだ。
「これは何の騒ぎでしょうか、抗議活動の許可は有りませんよね?」
「これは抗議活動ではない! 正当な抗議だ!」
「でも、人が集まっているのはおかしいですよね」
「地球人はみな宇宙人の脅威に怯えている! 此処にいる我が同胞達は我慢していた声を今此処に挙げただけに過ぎなーい!」
 警察官は呆れた様に応援を呼ぶが、その間にも、何故か集まってきた人々が天野に卵を投げつけ続けた。
「た、食べ物を粗末にするんじゃないーっ!」
 天野の悲鳴もむなしく、集まった六人ほどの人間はシュプレヒコールを上げ続けた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み