束の間の休息
文字数 1,320文字
エザフォスにも“古民家”という概念は有った。地球人にしてみれば、欧州の古城の様なエルダールの館や、アネールの城下町に有る老舗の宿の建物の様な物だ。
光の民 のメリーとフーニは地球にやって来て“古民家カフェ”なる物が有る事を知ったが、エザフォスの古民家は地球人が言うところのお城や歴史的建造物に等しく、とても買えたものではない。しかし、地球の古民家なら買えるだろう、と。だが、地球の古民家も今となっては概念が崩壊気味で、古典的な木造建築が残されている物だけでなく、ただのあばら家までもが異星人に古民家として売りつけられているのだ。
「いっその事お家建てた方が良くない?」
「だったらお菓子の家でよくない?」
広さも賃貸料も条件の良い物件が有ると不動産屋に案内された先は、山の中で半ば忘れ去られた様な別荘だった。
趣あるカフェを作りたいという二人の希望は早々に打ち砕かれ、二人は山を下りた。
仮住まいにしている空き店舗がある通りに戻ったのは、既に陽が傾いた頃。
「ん?」
二人が裏にある通用口に向かっていると、表側からシャッターを揺する様な金属音がしていた。
二人は建物の隙間の路地から、恐る恐る表を見た。
黒い人影の様な何かが、シャッターを叩いていた。すると、程無くしてもうひとつの、シャッターを叩いていたそれよりも細身の影が黒い影を突き飛ばし、斜向かいの建物を指差した。
ふたつの黒い影は斜向かいの空き店舗のシャッターを上げ、その奥へと進む。
二人はその様子を窺 いながら、愕然として震えていた。
あれは、間違いなく、オークだ、と。
二人は出来る限り静かに裏手へと回り、通用口から建物へと入った。そして、今すぐ必要な物をかき集めると、三軒隣にある建物へと向かった。
午後八時。とっくに仕事が終わっているはずの時間、吉備津は会議室で途方に暮れていた。
彼女の眼前に広がっているのは屋内ピクニックの図。
四人の光の民 が避難してきたのだ。
彼等が警視庁本部庁舎に駆け込んできたのは、事務方の業務が終わった午後七時半を回った頃だった。相談室の窓口が閉まり、調査係も翌日に備えて帰宅してしまった為、対応に当たったのは特別機動捜査隊で宿直当番になっていた矢城だった。
矢城は駆け込んできた彼等から話を聞き、オークの拠点が彼等の過ごす商店街に有る事と、彼等を帰す事が出来ない旨を吉備津に報告した。一行は吉備津の判断により、一般開放される事も多い会議室に翌朝まで避難する事を許された。
しかし、大人しく怯えているわけではなかった。
彼等は手元に有った食料をかき集め、適当な食事をこしらえているのである。
一般人を庁舎に留まらせる以上、責任者が監督する必要がある。吉備津は守衛に簡易ベッドを出すように依頼し、彼女自身は矢城が調達してきた出来合いの食事で夕飯を済ませていた。
午後十時過ぎ、会議室の明かりを落とすまで一行は屋内ピクニック状態のままカードゲームに興じ、明かりが消えるとそのまま眠りに就いた。吉備津にとっては、少し早めに眠る事が出来た、それだけが救いだった。
「いっその事お家建てた方が良くない?」
「だったらお菓子の家でよくない?」
広さも賃貸料も条件の良い物件が有ると不動産屋に案内された先は、山の中で半ば忘れ去られた様な別荘だった。
趣あるカフェを作りたいという二人の希望は早々に打ち砕かれ、二人は山を下りた。
仮住まいにしている空き店舗がある通りに戻ったのは、既に陽が傾いた頃。
「ん?」
二人が裏にある通用口に向かっていると、表側からシャッターを揺する様な金属音がしていた。
二人は建物の隙間の路地から、恐る恐る表を見た。
黒い人影の様な何かが、シャッターを叩いていた。すると、程無くしてもうひとつの、シャッターを叩いていたそれよりも細身の影が黒い影を突き飛ばし、斜向かいの建物を指差した。
ふたつの黒い影は斜向かいの空き店舗のシャッターを上げ、その奥へと進む。
二人はその様子を
あれは、間違いなく、オークだ、と。
二人は出来る限り静かに裏手へと回り、通用口から建物へと入った。そして、今すぐ必要な物をかき集めると、三軒隣にある建物へと向かった。
午後八時。とっくに仕事が終わっているはずの時間、吉備津は会議室で途方に暮れていた。
彼女の眼前に広がっているのは屋内ピクニックの図。
四人の
彼等が警視庁本部庁舎に駆け込んできたのは、事務方の業務が終わった午後七時半を回った頃だった。相談室の窓口が閉まり、調査係も翌日に備えて帰宅してしまった為、対応に当たったのは特別機動捜査隊で宿直当番になっていた矢城だった。
矢城は駆け込んできた彼等から話を聞き、オークの拠点が彼等の過ごす商店街に有る事と、彼等を帰す事が出来ない旨を吉備津に報告した。一行は吉備津の判断により、一般開放される事も多い会議室に翌朝まで避難する事を許された。
しかし、大人しく怯えているわけではなかった。
彼等は手元に有った食料をかき集め、適当な食事をこしらえているのである。
一般人を庁舎に留まらせる以上、責任者が監督する必要がある。吉備津は守衛に簡易ベッドを出すように依頼し、彼女自身は矢城が調達してきた出来合いの食事で夕飯を済ませていた。
午後十時過ぎ、会議室の明かりを落とすまで一行は屋内ピクニック状態のままカードゲームに興じ、明かりが消えるとそのまま眠りに就いた。吉備津にとっては、少し早めに眠る事が出来た、それだけが救いだった。