無条件の鉄槌
文字数 1,349文字
廃神社周辺でオークの捜索が始まったのは、日が暮れた頃だった。
天野は隠れ場所になっている可能性のある廃墟の周辺を、願わくば何も居ませんように、と、祈る様な気持で歩いていた。
調査係の種戦力ともいうべき武寿賀と風見は、矢城と草薙を連れ、廃神社の敷地の調査に乗り出している。
「居るぞ」
勝手に同行している体で天野らに追従していたアネミースは、あの廃墟の傍に来て呟いた。
「此処で反応するという事は、居てもウルクまでだ。天野君はひとまず自分の身を守りなさい……調査権限が有るのはあんた方だ、入ってくれるな」
気は進まなかった。だが、これも職務だと諦め、天野は庭木の茂った廃屋の門に手を掛けた。
蜘蛛の巣とつる草の絡みついた木の奥をライトで照らすと、影があった。
「こんばんはー、警察の者ですけどー、どうかされましたかー?」
天野の声に反応し、かがみ込んでいた影はそちらを向く。
その動きがもたらしたのは、やけに生臭い臭気。
「あ、あの……」
天野が一歩踏み出そうとした瞬間、黒い影は山猫が飛び出す様な勢いで天野へと飛び掛かった。そして、押し倒された悲鳴が響いた時には、アネミースの刀がオークの頭に向けられていた。
「動くな!」
アネミースが剣を突き出そうとした時、天野は腕を突き出して叫んだ。
「やめろ! やめてくれ! 僕は、僕は殺したくなんか」
アネミースは舌打ちし、呪文詠唱に出た。
「雷撃魔術 」
天野に覆い被さるオークの体が硬直した。
「魔槍投下 」
動きを封じられたオークに鋭い魔法の衝撃が突き刺さり、オークは歪んだ呻き声を上げる。押し倒されたままの天野が目を見開いた瞬間、彼の頭上で剣が振り下ろされ、オークのうなじから喉へと抜けた黒い切っ先が、その眼前に迫った。
生々しく湿った音を立て、アネミースの剣はオークの首から引き抜かれる。
「ぐわっ……」
事切れたオークの躯 が天野に圧 し掛かった。
「その槍は飾りか?」
オークの躯をどかそうともがく天野に降り注いだのは、呆れかえったアネミースの冷ややかな言葉と侮蔑の眼差しだった。
その向こうで、廃屋に潜んでいたオーク達が反対の方向へ駆け出してゆく。
「この役立たず が」
アネミースは忌々しげに言い放つと、オークが逃げた方向へと走り出した。
「大丈夫ですか?」
周囲を警戒していた別の組が、倒れ込んだままの天野と立ち尽くす醍醐を見つけた。その内の一人は天野の脇に腕を入れ、彼の身体をオークの下から引きずり出した。
「す、すみません……」
助け出された天野は緩慢に立ち上がって頭を下げた。
「怪我は有りませんか?」
「あ、はい……」
「しかし……これは」
「同行していたエルフの方が……」
「そうですか……それで、その方は」
「あちらの方へ……」
天野はアネミースが駆け出して行った方角を見る。
「はぁ……それはそうと、此処にゴブリンが居たという事は……この建物でしょうか」
「その可能性はあります」
天野を助け出した人物は家の外周を慎重に回る。そして、二階の窓が開いている事に気付いた。
しかし近辺に気配は感じられなかった。
天野は隠れ場所になっている可能性のある廃墟の周辺を、願わくば何も居ませんように、と、祈る様な気持で歩いていた。
調査係の種戦力ともいうべき武寿賀と風見は、矢城と草薙を連れ、廃神社の敷地の調査に乗り出している。
「居るぞ」
勝手に同行している体で天野らに追従していたアネミースは、あの廃墟の傍に来て呟いた。
「此処で反応するという事は、居てもウルクまでだ。天野君はひとまず自分の身を守りなさい……調査権限が有るのはあんた方だ、入ってくれるな」
気は進まなかった。だが、これも職務だと諦め、天野は庭木の茂った廃屋の門に手を掛けた。
蜘蛛の巣とつる草の絡みついた木の奥をライトで照らすと、影があった。
「こんばんはー、警察の者ですけどー、どうかされましたかー?」
天野の声に反応し、かがみ込んでいた影はそちらを向く。
その動きがもたらしたのは、やけに生臭い臭気。
「あ、あの……」
天野が一歩踏み出そうとした瞬間、黒い影は山猫が飛び出す様な勢いで天野へと飛び掛かった。そして、押し倒された悲鳴が響いた時には、アネミースの刀がオークの頭に向けられていた。
「動くな!」
アネミースが剣を突き出そうとした時、天野は腕を突き出して叫んだ。
「やめろ! やめてくれ! 僕は、僕は殺したくなんか」
アネミースは舌打ちし、呪文詠唱に出た。
「
天野に覆い被さるオークの体が硬直した。
「
動きを封じられたオークに鋭い魔法の衝撃が突き刺さり、オークは歪んだ呻き声を上げる。押し倒されたままの天野が目を見開いた瞬間、彼の頭上で剣が振り下ろされ、オークのうなじから喉へと抜けた黒い切っ先が、その眼前に迫った。
生々しく湿った音を立て、アネミースの剣はオークの首から引き抜かれる。
「ぐわっ……」
事切れたオークの
「その槍は飾りか?」
オークの躯をどかそうともがく天野に降り注いだのは、呆れかえったアネミースの冷ややかな言葉と侮蔑の眼差しだった。
その向こうで、廃屋に潜んでいたオーク達が反対の方向へ駆け出してゆく。
「この
アネミースは忌々しげに言い放つと、オークが逃げた方向へと走り出した。
「大丈夫ですか?」
周囲を警戒していた別の組が、倒れ込んだままの天野と立ち尽くす醍醐を見つけた。その内の一人は天野の脇に腕を入れ、彼の身体をオークの下から引きずり出した。
「す、すみません……」
助け出された天野は緩慢に立ち上がって頭を下げた。
「怪我は有りませんか?」
「あ、はい……」
「しかし……これは」
「同行していたエルフの方が……」
「そうですか……それで、その方は」
「あちらの方へ……」
天野はアネミースが駆け出して行った方角を見る。
「はぁ……それはそうと、此処にゴブリンが居たという事は……この建物でしょうか」
「その可能性はあります」
天野を助け出した人物は家の外周を慎重に回る。そして、二階の窓が開いている事に気付いた。
しかし近辺に気配は感じられなかった。