亜人は無駄を省きたい

文字数 1,150文字

「あぁ、良かった、瀬戸さん、相談変わって下さい。ヤバい案件が来ましたよ、ゴブリンです」
 調査係の執務室へと急いでいた熊獣人(アルクダ・サテュロス)の三津谷は、その道中でスツールを買って戻って来た瀬戸を捕まえた。
 瀬戸は神妙な表情を見せ、執務室に入れておいて、と、スツールを三津谷に押し付ける。
「それで、どこの部屋」
「五番相談室です」
「分かった」
 瀬戸が向かった先、五番相談室に待っていたのは、制服姿の女学生だった。
「ゴブリンを見たのは君?」
「あ、はい」
 瀬戸は彼女の向かいに腰を下ろした。
「僕は調査係の瀬戸、詳しく聞かせてくれる?」
 女学生は頷き、東京郊外のある場所で、塾の帰りにごつごつした肌の不審者を見た事、早朝、アパートの駐輪場の近くにネズミのしっぽの様な物だけが残る不気味な血溜まりを見つけた事を語った。
「でも、なんで所轄(しょかつ)の相談室じゃなくて、此処に来たの?」
「取り合ってくれなかったんです。親に言ってもダメ、お巡りさんに言ってもダメ、警察署にも電話したけどダメ……此処は予約無しで来ても、話を聞いてくれるっていうから」
「そう……ひとまず、この事は上司に報告するし、必要が有れば僕達が調査するから、暗い所や、人の居ない所には近付かないようにするんだよ」
「はい……それじゃ、よろしくお願いします。ありがとうございました」
 女学生は立ち上がると一礼し、足早に相談室を去っていった。
「さて、と」
 三津谷が書きかけた報告書をざっと見て、不足事項を適当に書き足した瀬戸はそれを手に部屋を出る。
「あぁ、瀬戸さん、どうでした?」
 瀬戸を待っていた三津谷は彼の手から報告書を受け取つつ問い掛ける。
「調べた方がいいみたいだね、どこも取り合ってなかったみたいだけど、ゴブリンは居るみたいだし」
「そうですか」
「ところでさ、なんで機動捜査の君が相談対応なんかしてるの?」
「最初は相談係が受けてたんだけど、直接被害を受けたわけじゃないし、ネズミの一件は野生動物じゃないのかって取り合わなかったらしくて、なかなか帰らないから助けてくれって」
「へー。それなのに、クレーム活動家はご丁寧に話を聞くんだね。何かあってからじゃ遅いのに、全く、ニンゲンの警察官ってのは学習しないんだから」
 瀬戸は廊下の端で騒ぐ女性の声を呆れて聞いていた。
「そうですよねー、ゴブリン出没疑惑は大っぴらにはされてませんけど、エルフさん達には重大事案なのにねー……なんだろ、ニンゲンのメンツってものですかね。うるさい人の対応をしていれば、外向きには仕事してますーって言えるから……それじゃ、僕はこれ提出してきますよ」
「お疲れさま」
 三津谷の背中を見送りながら、瀬戸は深い溜息を吐いた。
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