百戦錬磨の疲弊

文字数 1,545文字

「此処に連絡通路が在った可能性は有りますが……やはり、先ほどの地震の影響でしょうね」
 強い照明を手に、武寿賀は矢城を連れて雑木林を調査していた。
「この大木が倒れた事で、連絡通路(ワープホール)が塞がれてしまったのでしょう……とは言え、次の満月まで油断は出来ませんね。場所によっては、満月の重なる日の前後だけ現れる物も有りますから、満月になるとまた現れている可能性が有ります」
「だとしたら、近い内にまた出てくるかもしれないって事か……少しばかりの猶予は有るが、そう時間は無いな」
「そうですね。しかし、連絡通路(ワープホール)の位置が変われば、また問題が起こるかもしれません。重点的に戦闘要員を巡回させておく必要が有るでしょう。それと、建物は倒壊してしまいましたが、日の光が当たらない茂みは隠れ場所になります。夜明け前に戻ってくる可能性も有りますね」
 オークの痕跡を探して二人が暗闇を探っていると、近くで悲鳴が上がった。
 悲鳴を上げたのは草薙。彼女に身に降りかかったのは、オークの突進だった。
 草薙は風見と二人、周辺の警戒に当たっていたさなか、何かが走ってくる足音に気付いた。そして、明かりを向けて目にしたのは、五体のオークだった。
 ――見つけ次第駆除して下さい。
 武寿賀の指示に従い、草薙はオークに飛び掛かったのだ。
「やめろ!」
 五体まとめて相手をする事は出来ないと風見は叫んだ。だが、草薙は構わずオークに飛び掛かったのだ。猫獣人(ガタ・サテュロス)の彼女の素手では、家畜の様な皮膚を持つスナガを倒すのが限界であるにもかかわらず。
 風見の不安はそのまま現実となり、草薙は飛び掛かるまま一撃で弾き返され、悲鳴を上げた間に舗装された地面に叩き付けられたのだった。
 風見はシャツのスリットから翼を出し、草薙を抱えて退避しようとした。しかし、一体が倒れ伏した草薙のブラウスを破った事で、応戦するしかないと槍を構える。
 初めに槍を繰り出した先に居たのは、草薙に覆い被さった個体。殺す事は出来ずとも、暫くの間無力化出来れば妨害されずに上空へ逃げられる。彼はそう考えていた。
 次の集団が来るまでは。
 草薙の悲鳴を聞き、矢城と武寿賀は二人を探した。だが、彼らが現場を発見した時には、十体のオークが其処に居た。
 槍を掴まれてしまった風見は背後を取られまいとそれを手放し、着衣の大部分を破り捨てられた草薙を抱えて逃げようとしていた。
雷霧魔術(ネブラ・トニトールス)!」
 矢城は敵味方の区別無く微弱な電流を見舞い、剣を取って駆け出した。
 風見さえ斬らなければいい。そんな乱雑な立ち回りで、オークの頭部に鈍い衝撃を見舞う。
熱風拡散(カリド・スケープトス)!」
 電流の衝撃を脱したオークに熱風を食らわせ、動きの鈍ったオークの頭に剣を叩き込む。
 武寿賀は矢城の一撃を受けたオークにとどめを刺しながら、草薙へと近づく。
「風見君、今の内に!」
氷塊拡散(メテオリス・グラキエス)!」
 矢城が氷の塊を散らすと同時に、風見はシャツのスリットから羽を露出させ、草薙を抱えて舞い上がる。しかし、光が乏しく着地点が判然としない為、地上での戦闘が終わるまで上空に退避する事しか出来ない。
 風見の巨体が舞い上がった後も、矢城はオークに剣を叩き付ける。武寿賀の加勢で個体が減り、彼自身がとどめを刺せるようになったのは、残りが三体ほどに減った頃だった。だが、その頃には魔術を重ねた事に疲弊し、武寿賀の一撃無しには倒しきれなくなっていた。
「やったか……」
 攻撃と防御が表裏一体の状況下、一体たりとも逃せない環境。幾度となくオークを倒した矢城にとっても神経をすり減らす戦いが終わった。
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