蝙蝠包囲網

文字数 1,427文字

 ――緊急の調査よ。八王子方面で電波障害発生、超音波が出てる可能性あり、瀬戸さんと風見さんは現地で合流ね!
 望月は細身の刀を取り、地下の駐車場へと降りた。
「あ、あの、これ、何が始まるんですか?」
「ウェスペルティーリオの巣が見つかったかもしれないの」
「えぇ?」
 天野は目を丸くするが、運転席に乗り込む望月は止められない。
「お、俺隣でいいですか?」
「えぇ」
 望月に刀を押し付けられながら、天野はシートベルトを締める。
 後部座席に乗り込む草薙と醍醐は楽しげな様子で、やっと見つけたのねと語っていた。
「あの、これ」
「踏み込めば、おそらく駆除する事になるわ。そうでなくても、出くわした時には駆除しなきゃ」
「え……」
 望月は決して運転技術が高いわけでもなければ、車を出す事が好きでもない。だが、草薙と醍醐には務まらず、土地勘の無い天野には任せられない。
 車体はゆっくりと駐車場を抜け、公道へと進む。
 向かう先は八王子のとある廃病院にほど近い空き地、天野は何が起こるのかまるで分らないまま、成り行きに身を任せていた。
 自動車専用道を抜けて静かな道を進む車内で、天野は、東京にもこんな場所があったのだと感心していた。
 だが、感慨に耽っている間は無く、望月は枯草もそのままにされた空き地に車を止め、少し待っているようにと言って車外へと出た。そして、天野は車窓越しに見た光景に目を疑った。
 車を降りた望月が向かった先に居たのは武寿賀と、弓矢を持った男。それも、狩猟用のボウガンではなく、映画やゲームの世界で見る様な、古典的な弓矢を持った男だった。
「なんだか此処、うるさいですね」
 望月の言葉に、アネミースは武寿賀を見遣る。
「気付いていないのはアスプーロだけらしいな」
 望月は首を傾げ、アネミースを見た。
「地球人が言うところの超音波だな。蝙蝠の巣と同じ音がしている」
「という事は……」
 望月は視線を廃病院へと向ける。
「先ほど外周を確認したところ、解体業者が管理をしていたようですので、立ち入りの許可は貰っておきました」
「そういうところはしっかりしてるのよね、おじいさまは……それで、やっぱり、あそこが巣に?」
「おそらくは。ミスリルを持っていた為か、周囲に影は感じられませんでしたが、不穏な気配がしていました」
「……居たら、全部退治するの?」
「そうでなければ、こんな物騒な物は用意していませんよ。それに、中で退治出来るのなら面倒がありません。少なくとも、火災にさえならなければ、近く解体される建物ですから、血祭りになっても問題は無いでしょう」
 望月は表情を引き攣らせ、問題が無いわけでは無いと思うけど、と、呟いた。
「それはそうと、買い物に行っていた瀬戸さんと風見さんに、猫除けの超音波発生器を買ってくるように頼んだけど……効果があるかしら?」
「指揮系統を壊滅させたり、聴覚を混乱させる効果はあるだろうな。ウェスペルティーリオは発生による言語的な意思疎通が十分に出来るほど高等な生物ではない」
 望月の疑問に答え、アネミースは廃病院を見遣る。
「しかし、耳障りだ。耳鳴りよりもはっきりとして、気分が悪いな」
「車の中に入りますか? 少しはましだと思いますよ。踏み込むのは、瀬戸さんと風見さんが合流してからですから、後ろに乗って待っていて下さい」
 望月は車に向かい、助手席に座る天野に後部座席に行くようにと告げた。
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