パンに挟まれた男の悲哀

文字数 1,617文字

「これで全員揃ったわね」
 休憩室に居たのは庁内に残っていた望月と高木に、あのレストランの周辺で聞き込み調査をしていた天野と醍醐だった。
「女子会……でもないけど、そんな感じね!」
 居心地悪そうに笑う天野の隣で、高木は笑みを浮かべていた。
 白銀は何処か不思議そうにその様を見つめながら、望月の隣に腰を下ろし、高木と向かい合う。
「近くのベーカリーにサンドイッチを頼んだの、これが白銀さんの分よ」
 望月は綺麗に切り揃えられたサンドイッチの入った容器を白銀に差し出す。
「それじゃ、いただきましょう」
 望月の言葉に、何も知らない四人は楽しげな昼食へと突入する。
「そういえば、望月さんって此処に来る前は何をしていたんですか?」
 高木は首を傾げ、無邪気に問い掛けた。
連絡通路(ワープホール)の調査をする臨時職員だったわ」
「へー…醍醐さんは?」
「警察署の事務職員でした」
 二人の答えを聞き、白銀は高木の真意に思いを馳せていた。白銀は全てを知っているのだ。
「それじゃあ……白銀さんは、何処から来たんです?」
「剣術の道場で働いていました」
「剣術? 剣道の先生だったんですか?」
「真剣の方です」
 その言葉に、醍醐と天野は目を丸くした。
「それって、あの、わらの束を斬ったりするあれですか?」
「正確には畳表だけど、それに近いわ」
「何年くらい勤めてらしたんです?」
 高木は更に首を傾げて問うが、白銀は高木の目を見ようとはしない。
「さあ」
 ぶっきらぼうな回答に、高木は眉を顰めた。
「さあ、って、それすごく大事な事じゃないんですか?」
「申し訳ないけど、私にとっては大事な事では無いわ……それより、天野さん、これ、残すのは忍びないから、引き取っていただけるかしら」
 白銀は器と分けた容器のふたに、カツサンドを一切れ入れて差し出す。
「え、いいんですか?」
「どうも、この、衣をつけて油で揚げた料理というのは苦手で」
「はぁ……それじゃ、いただきます」
 天野は少し困惑しながらも、白銀から差し出されたそれを受け取った。
「そういえば……高木さんって、格闘技をしてたんですよね」
 天野の問い掛けに、白銀は神経を傾けた。
「何年くらい修業されてたんですか? ずっと道場に居たんですよね」
「えぇ。だけど、ずっと同じ道場に居たわけじゃないの」
「武者修行的な?」
「いいえ、あまりに長い時間居てしまうから」
 天野は首を傾げ、思いつくままに問いかけた。
「えっと……高木さん、おいくつなんですか」
 女性になんて事を聞くのだと、醍醐と望月は表情を引き攣らせるが、高木は笑って、いくつに見えるかしらと一堂に問う。
「え、ま、まだ二十代ですよね?」
 醍醐は天野の足を蹴り飛ばしながら、取り繕う様に問い掛ける。
 しかし、高木はおかしそうに笑った。
「ハズレよ。ふふ、私、こう見えても今年で六十なのよ!」
 嬌声を上げ、高木は肩を震わせた。
「え……あ……」
 それが冗談なのか、真実なのかわからず、天野は声を詰まらせる。
「という事は、高木さんはアネールかしら?」
「えぇ」
 アネール。望月の発した聞きなれない言葉に天野は首を傾げると、彼女はそれに答えた。
「アネールっていうのは、エザフォス星で人間に一番近い種族よ」
「で、でも」
「とても長寿だという事を除いてはね」
「それじゃあ……まだ、三十歳くらい?」
 天野は再び高木を見遣る。すると、望月はそれを補う様に続けた。
「もう少し若いかしら。アネールは二百数十年を生きるもだから」
 高木は真意の見えない笑みを浮かべて、天野を見つめ返す。
 天野が澄み切った青色の眸に天野が我を忘れていると、再び醍醐の足が天野を蹴り飛ばす。
「早く食べないと、まだ外に出るんですよね」
「あ、はい……すみません……」
 天野は勢いのまま謝り、白銀に譲られたカツサンドを齧った。
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