傭兵の剣舞

文字数 935文字

 オークはエルダールを嫌う。そう言って風見の制止を振り切った矢城は、朽ちかけた社殿の傍まで進んだ。
 湿った土の匂いの中にかび臭さを覚え、それがオークの根城の洞窟の物と似ている事に気付く。
 ――この奥に連絡通路(ワープホール)が有るのか。
 地球の月齢は進んでいるとはいえ、出口としての力はあまり高くない時期にもかかわらず、何故その臭いがするのか。矢城が気配を探し始めた時、異変が生じた。
 地鳴りである。
 矢城は朽ちかけた社殿から一目散に通りへと走り、その背中に揺さぶられるまま崩れてゆく社殿の衝撃を感じた。
「こんな時に……」
 独り言を言いかけて、彼は目を(みは)った。
「風見、逃げろ!」
 社殿から吐き出されたであろう黒い影が、こちらに迫ってくる。
 数は三体、日向を嫌うオークだ。
 矢城は持っていた剣を抜き、駆け出しながら呪文を唱えた。
「砂の(ネブラ・サブルム)
 詠唱が終わると同時に、オークの視界が遮られた。その刹那に彼は一体の心臓を一撃で貫き、返す刀で出鱈目に振り下ろされた剣を弾く。そして、あたかも踊る様な足取りで、その個体の背後に回り込むと、今度は首の後ろを一撃で貫き、引き裂くままに剣を自由にして、残る一体の顔面を刺し貫いた。
 彼は魔法を使う事はを好まないが、防具の無い状態で多数を相手にする上に怪我をするわけにもいかない状況だった。納得した表情は浮かべていなかったが、三体を一瞬にして、無傷のまま狩った事には満足していた。
 矢城は辺りを見回し、廃神社の正面から遠ざかった風見の姿を探す。
「もう大丈夫だ」
 その言葉に、風見は矢城の方へと戻る。
「さっきの地震で出口が変わっちまったかもしれないな……まぁ、どちらにせよ、新月の時にはオークの移動も止まるが……どれだけの数が吐き出されているか分からんのが厄介だ」
「……さっきのは中に居たとして……まだこの辺に居る可能性は十分にあるか」
「あぁ。だが、運が良ければこれ以上増える事は無いだろう。応援が来たら班を編成して、そこら辺に張っていればいいだろう」
 矢城と風見は三体のオークを駆除した事と、地震の影響などを武寿賀に報告し、近隣の警察署から現場検証の人員が来るのを待った。
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