確証を探して

文字数 1,327文字

 係長室を出た望月は特別機動捜査隊の控室へと向かう。
 連絡係として待機していたのは犬獣人(スキロ・サテュロス)の柴田だった。望月が覗いた時には、室内の広い場所で、空手の型稽古をしているところだった。
「失礼します、調査の望月です」
 望月が空けたままの扉の向こうから声を掛けると、柴田は出入り口へと向かう。
「調査の方が何の御用?」
「実は、ちょっと調べている事がありまして……つかぬ事をお聞きしますけど……うちの草薙と親しい方に、心当たりは有りませんか?」
「草薙さん……あぁ、あの猫獣人(ガタ・サテュロス)の。だったら、漁利(いさり)先輩じゃないですか?」
 柴田は怪訝に眉を寄せるが、質問には答えた。
「漁利さん……今は外出中?」
「いや、道場で空手のお稽古よ」
「ご協力、ありがとうございます。失礼しました」
 柴田が、何か有ったのかと問うより先に、望月は踵を返して庁舎内にある道場へと走った。
 そして、監督をしていた責任者に漁利を呼び出せるかと問い、二人は廊下で顔を合わせる事となった。
「お稽古中申し訳ありません、調査の望月です。実は、うちの草薙について……最近、様子の変わったところが無かったか、お聞きしたくて」
「何か、有ったんですか?」
「ちょっと口外出来ない調査が有って……」
「あぁー……まぁいいわ」
 漁利は、此処が警察組織でも特に特殊な場所であると理解していた。故に、望月の質問は身辺調査か何かだと理解する。
「……そうねぇ。あ、そういえば、ここのところ、お昼食べてても、なんか上の空になる事が多かったっけ」
「上の空?」
「えぇ。なんとなく、心此処に在らず、みたいな……」
「その時、何か共通していた事がありますか?」
「んー……」
「それじゃあ、最後にそういう様子だった時、一緒に居た人とか居ますか?」
 漁利は首を傾げて考え込んだ。
「あー……そうだ、同じテーブルじゃなかったけど、相談係の柏木さんが辞める辞めないで、食堂のど真ん中なのに相談係の女係長と大喧嘩してたわ。それこそ、あの人旦那さん道連れに辞めてやるって大騒ぎしてたのよ」
「柏木さん……エルダールの方で、機動隊の隊長殿の奥さまですよね」
「えぇ。なんでも双子ちゃんおめでたで、育児休暇じゃなくて辞めたいんだって。あ、そうそう、それ、別の班の黒井さん……知ってるかもだけど、狼獣人(リコ・サテュロス)とハーフのイケメンが仲裁してたわ。なんか、エルフさん達って子供産むのめっちゃ大変なんでしょ?」
「そうですね……人間以上に、繁栄に向いていない肉体だとは言われます」
「黒井さんもそんな話をしてたっけ」
「それで、その……その時、他に話した事は有りますか?」
「えーっと……そう、後輩の柴田さんが結婚するんだけど、ウェルカムドールで迷ってたから、どっちがいいかなって、写真を見てもらって……でも、なんか、生返事でね……彼女らしくないでしょ?」
「そうですね……ごめんなさい、変な質問しちゃって。それじゃあ、私はこれで」
「お勤めご苦労様です」
 戻ろうとする望月に漁利は少しおどけて敬礼を見せた。
 望月はその場を取り繕おうと、ぎこちなく笑って敬礼を返した。
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