謎多きオークの急襲

文字数 1,637文字

 静まり返った公園。民家から多少離れているとはいえ、天野にとって、その静けさと暗さは異様だった。
 民家まではどのくらい距離があるのか。天野は明かりを求める様に辺りを見回す。そして、槍の穂先が青白く光ったのを目にした。
「ど、何処だ?」
 物音はしない。公衆トイレの建屋の上で散弾銃を構える瀬戸も、青白い光に呼応して銃を構える。だが、遅かった。
「あぁっ!」
 突然、固い樹皮の様な何かが瀬戸を後ろから羽交い絞めにし、彼は混乱のあまり一発しか装填していない散弾銃を暴発させてしまった。
「え」
 悲鳴と銃声に天野は音の方向を見るだが、振り返った瞬間、彼もまた何者かによって羽交い絞めにされた。
「くわっ……」
 彼を羽交い絞めにするのは、ざらついた皮膚。丁度、豚のそれに近い様な何かだった。
「どこから来たんでしょうね」
「分からん。だが、魔力を持っているという事は、こいつらは斃された者達(イティメノス)か……ウルクよりも厄介だ」
 茂みに潜んで居た武寿賀とアネミースは低い木を薙ぎ倒し、両脇から突っ込んできた個体と対峙する姿勢を取る。
「物理的に首を刎ねればいい。だが、状況が悪すぎる……風の盾(スケープトス)!」
 目の前の一体を弾き飛ばすと、アネミースは公衆トイレの方に向かう。ほぼ時を同じくして、武寿賀も目の前の一体を魔法で弾き飛ばし、詠唱を重ねた。
雷撃魔術(トニトールス)!」
 電流の魔術を重ねながら、武寿賀は天野の方を見た。
偽隕石投下(シミリータ・メテオリテス)!」
 黒い影の頭部めがけて、強い衝撃波の魔術を発動させる。
 天野を羽交い絞めにしていた個体は潰れた様な悲鳴を上げ、天野を抱えたまま後ろに倒れ込む。
「う、うわぁ!」
「あ、天野さん!」
 突然の襲撃に凍り付いていた醍醐は、道連れに引き倒された天野の悲鳴に呼応して飛び出した。
「駄目だ!」
 アネミースは叫ぶが、醍醐は気付いていなかった。武寿賀がオークに魔法で攻撃を与えている間に、アネミースの矢で公衆トイレの屋根から落とされた個体がそちらに向かっている事に。
「きゃっ!」
 オークの固い体が醍醐に激突する寸前、アネミースの矢が再びオークを押し倒す。
魔槍投下(メテオリス・ランケア)!」
 鋭利な衝撃が、オークの固い皮膚を破って突き刺さる。だが、そんなもので息絶えるほどオークは脆弱でない。
 アネミースはミスリルの探検を抜き、倒れたオークに覆い被さった。しかし、まだ息のあるオークは抵抗し、彼の首に手を掛ける。
 応戦するアネミースは星の民(エルダール)の物とは言い難い、凄まじい咆哮を上げながら、体ごとオークの頭に短剣を打ち込んだ。
 その凄惨な光景に、醍醐も天野も言葉を失い、動けなくなる。だが、そのすぐ傍では、弱体化させられただけのオークにとどめを刺すべく、瀬戸と武寿賀が剣を構えていた。
魔槍投擲(クリス・スケープトス)!」
 不穏な気配に、公園まで引き返してきた望月が、武寿賀の背後に迫らんとする個体に鋭利な魔法の衝撃を投げ付けた。そして、一瞬の隙をつくように剣を抜き、叫び声を上げながらその個体に突進した。
 だが、その個体はその一撃を簡単にかわし、彼女を殴打しようとする。
魔槍投擲(クリス・スケープトス)!」
 アネミースは背後の気配だけで魔術を発動させ、望月を襲わんとする個体の気を逸らす。
「そいつは斃された者達(イティメノス)だ、お前には倒せん!」
 望月は目を見開き、立ち上がる個体を凝視した。
雷撃魔術(トニトールス)!」
 アネミースは叫び、望月が逃げるだけの時間を稼ごうとした。だが、斃された者達(イティメノス)は望月を諦めず、握りしめた拳を彼女へ向ける。
「風の(スケープトス)!」
「ひっ」
 吹き飛ばされ、望月は尻もちをつく。その次の瞬間、再びおぞましいほどの咆哮を上げたアネミースの短剣が、オークの頭頂部に突き刺さった。
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