破滅の始まり

文字数 1,262文字

「父上!」
 館に戻ったまま、プロイアスは外套も脱がずにシネーティアウスを探す。
「プロイアス、どうしたんだ」
「父上、青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)諸悪の化身(エフィアルティース)が出現したというのは、本当なのですか」
 シネ―ティアウスは眉根を寄せて頷いた。
 プロイアスはそのまま膝をつき、目を瞠る。
「何かあったのか」
星見岬(カエヴィデラ)の地下牢から、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)が、逃げ出していたのです」
 シネ―ティアウスは目を見開いた。
「逃げ出していた……しかし、いた、とは、一体……」
「看守は幻術によって生み出されたもので、本物の看守は、とっくに殺されていた、と……出入りしている巫術師(サマノス)が気付き、発覚したそうです」
「一体、それはいつ頃の事だ、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)が逃げ出したのは!」
「死体を検分した医者曰く、三か月から、半年ほど前だと」
「まさか……」
 シネ―ティアウスは背筋が凍る様な感覚に陥った。
 青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に現れた諸悪の化身(エフィアルティース)。本来なら起こるはずのない事が起こった理由は、それではないのか、と。
「……身支度をしろ。プラティーナの館に行くぞ」
「父上」
「プラティーナの子供達は青き巨星(ブレ・メガロフィガリ)に居る……早く、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)を見つけなければ……」
「しかし、見つけたところで、あれを殺す術が有るのですか。あれはエフィアルティースよりもずっと恐ろしいものでは」
「殺す為の武器なら私が鍛える。例えこの命を削ろうとも、あれを殺さなければならない……愚かなアネールどもに、鉄槌を下すよりも、それが先だ」
 シネーティアウスは不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)を何としても葬り去る様にと忠告し続けていた。
 諸悪の化身(エフィアルティース)が変質して生まれたそれは、諸悪の化身(エフィアルティース)に取り憑かれた者を倒すよりも難しい。何故なら、諸悪の化身(エフィアルティース)は負の感情に取り憑き、多くの者を害する反面、宿主自身は殆ど動く事が無く、場合によってはオークの様な異形に変貌するだけだが、不死なる罪の化身(アサーナタマティーア)は宿主を傀儡(かいらい)とし、害悪を撒き散らすのである。
 それも、罪の無い者を次々と異形に変え、あるいは虐殺する様な害悪を。そして、それを倒す事が出来るのは、清浄なる力を有した星の民(エルダール)だけである。
 アネールもその脅威は知っていたが、それを逃がしたアネールは今、死刑を廃止すべきだと議論をしている最中で、他の種族からの忠告を聞き入れる状況に無かった。
「今此処で食い止めなければならない……我々から宣戦布告する事も、考えるべきだな」
 プロイアスは息を呑んだ。彼はまだ、戦を知らないのだ。
「とにかく身支度を整えろ」
 言われるまま、プロイアスは立ち上がり、館の中を走った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み