第2章 第6話
文字数 1,020文字
「へーーーー。トラが、アンタをねえ。」
亜弓は焼酎の水割りを口に含みながらあかねを眺めている。
カウンターで健太の隣に座り、上品に今夜の夕食の焼うどんを上手にすすりながら、あかねがトラとの邂逅を亜弓と健太に話したのだ。
「でもアンタの父さんはちゃんとした人じゃんか。そうだよ、トラは自分の為にケンカなんてしねえんだよ。大体いつも仲間をコケにされたとか親をバカにされたとか、そんな理由でケンカすんだよ。」
「私、未だに暴力に対しては懐疑的なのですけど。それでもトラくんに女子としての最大の危機を救ってもらったことには変わりありませんから。そしてトラくんが一人の女子を救いその子と家族に大変感謝されている、と言う事実は知っておいてもらいたかったのです。実際父自身、いつかトラくんに直接礼がしたいそうです。」
「へー。今時大した親じゃねえか。ねえ永野サン」
健太は全力で首を縦に振る。確かに今時、こんな不良に直接礼をしたいなんて言う親は珍しいのかもしれない。
「ま。いつか連れて来いよ。トラは照れまくるだろーな」
「あ。もう直ぐここに来ると思います、私を迎えに。」
「アハハー。溺愛されてんなオマエ。永野サンは息子だっけ? 娘はいないんだよね?」
「うんそう。娘かあ。いいな。確かに」
「永野さん、目がエロいぞコラ!」
時計を見ると八時過ぎだ。生徒の半分は帰宅し、残りはダラダラと過ごしている。もう直ぐ常連客が入ってくる時間だ。
「よーし、お前らそろそろお開きだ。そこの三人の女子をちゃんと送って行けよー」
「「「トラくーん、送ってー」」」
「ムーリー」
トラが素っ気なく言い返し、後輩に向かい
「カヤノー、岡谷ー、オマエら責任持って送ってけー」
「「ウイース」」
なんだかんだで、面倒見の良いトラなのである。
その時。入り口のドアがそっと開かれる。常連客がもう来たのだろうか。
健太は入り口を振り返り、そして大きく目を開いた。何でアイツが…
「… 須坂… 何で、お前…」
その上品な男性は軽く店内を見廻し、カウンターのあかねを見つけ顔を綻ばせた後、その隣に座る健太を見て、硬直する。
「永野…」
亜弓は二人を交互に見比べ、
「あれ。お知り合い?」
健太は身動きが出来なかった。そして、あの日の須坂の言葉が脳裏に蘇って来た…
「永野の部長職の任を解きしかるべき部署に転属とすることを決定した。」
玉川エレクトロニクス本社人事部長の須坂崇志は、あの日と同じ冷たい瞳で健太を見つめた。
亜弓は焼酎の水割りを口に含みながらあかねを眺めている。
カウンターで健太の隣に座り、上品に今夜の夕食の焼うどんを上手にすすりながら、あかねがトラとの邂逅を亜弓と健太に話したのだ。
「でもアンタの父さんはちゃんとした人じゃんか。そうだよ、トラは自分の為にケンカなんてしねえんだよ。大体いつも仲間をコケにされたとか親をバカにされたとか、そんな理由でケンカすんだよ。」
「私、未だに暴力に対しては懐疑的なのですけど。それでもトラくんに女子としての最大の危機を救ってもらったことには変わりありませんから。そしてトラくんが一人の女子を救いその子と家族に大変感謝されている、と言う事実は知っておいてもらいたかったのです。実際父自身、いつかトラくんに直接礼がしたいそうです。」
「へー。今時大した親じゃねえか。ねえ永野サン」
健太は全力で首を縦に振る。確かに今時、こんな不良に直接礼をしたいなんて言う親は珍しいのかもしれない。
「ま。いつか連れて来いよ。トラは照れまくるだろーな」
「あ。もう直ぐここに来ると思います、私を迎えに。」
「アハハー。溺愛されてんなオマエ。永野サンは息子だっけ? 娘はいないんだよね?」
「うんそう。娘かあ。いいな。確かに」
「永野さん、目がエロいぞコラ!」
時計を見ると八時過ぎだ。生徒の半分は帰宅し、残りはダラダラと過ごしている。もう直ぐ常連客が入ってくる時間だ。
「よーし、お前らそろそろお開きだ。そこの三人の女子をちゃんと送って行けよー」
「「「トラくーん、送ってー」」」
「ムーリー」
トラが素っ気なく言い返し、後輩に向かい
「カヤノー、岡谷ー、オマエら責任持って送ってけー」
「「ウイース」」
なんだかんだで、面倒見の良いトラなのである。
その時。入り口のドアがそっと開かれる。常連客がもう来たのだろうか。
健太は入り口を振り返り、そして大きく目を開いた。何でアイツが…
「… 須坂… 何で、お前…」
その上品な男性は軽く店内を見廻し、カウンターのあかねを見つけ顔を綻ばせた後、その隣に座る健太を見て、硬直する。
「永野…」
亜弓は二人を交互に見比べ、
「あれ。お知り合い?」
健太は身動きが出来なかった。そして、あの日の須坂の言葉が脳裏に蘇って来た…
「永野の部長職の任を解きしかるべき部署に転属とすることを決定した。」
玉川エレクトロニクス本社人事部長の須坂崇志は、あの日と同じ冷たい瞳で健太を見つめた。