第2章 第9話
文字数 1,238文字
保護者会に出席したのは、松本寅の母親。G K小谷の母親。M F岡谷の両親。そしてF W茅野の両親の四家庭のみであった。出席率は半分以下だ。それだけ子供の部活に興味がないのだろうか。
一美の前に勤めていた学校のバレー部では、保護者会の欠席はほぼゼロだった。試合ともなると両親のみならず兄弟、祖父母も駆けつけ、大変な盛り上がりを見せたものだった。
それが…
学校の会議室の空気が冷たく重い。それも全て、トラの母親が一美を全力で睨み付けているからなのだ。
亜弓の目には一美はチャラついた痛いアラフォーにしか見えなかった。スーツ姿に似合わないゆるいウエーブのかかった栗色の髪。まるでデパートの一階の化粧品売り場でメイクしてもらいましたとばかりの濃いメーク。首にはブランド物のネックレス。
こんな女が顧問とは… こんな女と永野さんは毎日連絡を取り合っている…
許せない。何コイツ。
保護者会が始まる。先生の横に妙にスーツが似合う永野サンがいる。なんてスーツが似合うんだろう、亜弓は自分の鼓動が高まるのを抑えることが出来ない。
似ても似つかない。亡くなった旦那とは。
旦那はあんな疲れた目をしていなかった。あんな白髪混じりの頭じゃなかった。あんなボソボソと話すヤツじゃなかった。
だのに。何故…
どうして永野サンが気になるんだろう。
亜弓は全然わからなかった。
あの日。トラと永野サンが紙切れ一つに熱く語り合っていたのを見た時。何か心の中で弾けるものを感じた。
これ。これよ。私とトラに足りなかったもの。
私に足りなかったもの。
それが何かを具象化する言葉を亜弓は知らない。
しかし本能的に、アタシは永野サンに惹かれている
その事実は間違いのないものだと思った。
そして
この事実に横槍を入れようとする人間を
アタシは決して許さない。
何でだろう。何故なの?
松本の母親が睨み続けている。
正直、この母親が怖くて仕方がない。
風の噂で、この母親が昔この辺りの有名な暴走族のリーダーだったと聞いた。バレーボール一筋で生きてきた一美にとって、暴走族の存在自体が何処か外国の出来事のような気がしてならない。
未だ嘗て付き合った事のない人種との関わり合い。これも教師の勤めなのだ。教職にある以上、避けては通れない道なのだ。それにしてもー
これだから、嫌なのだ。この様な底辺校の男子の部活の顧問なんて、やっていられない。どうしてこの私が、高校大学とバレー一筋でのし上がった私が、恐らく中卒の女に祟られなければならないのか。
隣に座るスーツ姿のコーチをチラリと眺める。
正直、見直した。
人はその姿佇まいが品格を示す。そう教わり実感してきた一美から見ても、今日の健太は普通の一部上場企業の管理職、にしか見えない。それも相当やり手の『出来る男』にしか見えない。
今までグランドで見てきた、かつての栄光をカサに威張り散らしている中年男、とは全く違う立派な紳士だ。
襟を正し、一美は保護者会を進めて行く。
一美の前に勤めていた学校のバレー部では、保護者会の欠席はほぼゼロだった。試合ともなると両親のみならず兄弟、祖父母も駆けつけ、大変な盛り上がりを見せたものだった。
それが…
学校の会議室の空気が冷たく重い。それも全て、トラの母親が一美を全力で睨み付けているからなのだ。
亜弓の目には一美はチャラついた痛いアラフォーにしか見えなかった。スーツ姿に似合わないゆるいウエーブのかかった栗色の髪。まるでデパートの一階の化粧品売り場でメイクしてもらいましたとばかりの濃いメーク。首にはブランド物のネックレス。
こんな女が顧問とは… こんな女と永野さんは毎日連絡を取り合っている…
許せない。何コイツ。
保護者会が始まる。先生の横に妙にスーツが似合う永野サンがいる。なんてスーツが似合うんだろう、亜弓は自分の鼓動が高まるのを抑えることが出来ない。
似ても似つかない。亡くなった旦那とは。
旦那はあんな疲れた目をしていなかった。あんな白髪混じりの頭じゃなかった。あんなボソボソと話すヤツじゃなかった。
だのに。何故…
どうして永野サンが気になるんだろう。
亜弓は全然わからなかった。
あの日。トラと永野サンが紙切れ一つに熱く語り合っていたのを見た時。何か心の中で弾けるものを感じた。
これ。これよ。私とトラに足りなかったもの。
私に足りなかったもの。
それが何かを具象化する言葉を亜弓は知らない。
しかし本能的に、アタシは永野サンに惹かれている
その事実は間違いのないものだと思った。
そして
この事実に横槍を入れようとする人間を
アタシは決して許さない。
何でだろう。何故なの?
松本の母親が睨み続けている。
正直、この母親が怖くて仕方がない。
風の噂で、この母親が昔この辺りの有名な暴走族のリーダーだったと聞いた。バレーボール一筋で生きてきた一美にとって、暴走族の存在自体が何処か外国の出来事のような気がしてならない。
未だ嘗て付き合った事のない人種との関わり合い。これも教師の勤めなのだ。教職にある以上、避けては通れない道なのだ。それにしてもー
これだから、嫌なのだ。この様な底辺校の男子の部活の顧問なんて、やっていられない。どうしてこの私が、高校大学とバレー一筋でのし上がった私が、恐らく中卒の女に祟られなければならないのか。
隣に座るスーツ姿のコーチをチラリと眺める。
正直、見直した。
人はその姿佇まいが品格を示す。そう教わり実感してきた一美から見ても、今日の健太は普通の一部上場企業の管理職、にしか見えない。それも相当やり手の『出来る男』にしか見えない。
今までグランドで見てきた、かつての栄光をカサに威張り散らしている中年男、とは全く違う立派な紳士だ。
襟を正し、一美は保護者会を進めて行く。