第4章 第12話
文字数 1,826文字
「それにしても… 蒲田の方、指導者誰だ?」
「慶王は知ってますけど。誰でしょうね」
「このメンツで慶王相手にここまでやらせるなんて。後でちょっと挨拶行くか?」
「ええそうしましょー ああ!」
グランドから鋭いホイッスルの音が響き渡る。
「かーー P Kかあ、あれ足掛かってねーだろーが」
「ネイマールより上手い演技でしたね… 主審が部活の先生じゃ、見分けつかないかー」
「…あの、赤髪。地元の有名なワルって言ってたよな?」
「…ですよね。でも…」
「ああ。不可解な判定受けたのに、あの態度…」
「本当のワルなら、主審に食って掛かるかぶっ飛ばすとか」
「なあ。なのにちゃんと判定を受け入れて、そして味方を鼓舞して…」
玉城は元々細い目を更に鋭くし、呟く。
「シム。これ慶王、外すぞ」
「えーー、流石にそれは…」
「蒲田のキーパーの顔、見てみろ。」
「… ニヤ笑いしてますね…」
「あの赤髪が声かけてからな。」
「でも、蹴るの新田でしょ、流石にー ああああ!」
「はっは、ほらなー、俺の言った通りだろーがコラ!」
玉城が何度も志村の肩を叩きながら、吠える。
「やば… 玉城さん、落ち着いて…」
「コラアー、蒲田―、切り替え遅えぞおー、周り見ろコラアー」
「ちょ、ちょっと玉城さん、みんな見てるって…」
「永野サン、なんか周りうるさいっすね」
キョンは不審な二人組の方を見ながら口を尖らせる。
「父兄じゃないな。どっかの偵察か、街クラブのスカウトじゃないか?」
「ですかね… どーでもいーけど… それより、今のはユーキくん、ナイスキーでした!」
「ああ。多分トラがあのキッカーの蹴る方向教えたんだと思う」
「ユーキくん。多分永野サンが来てから、一番伸びましたよね!」
「ああ。G Kはカテゴリーが上のシュートを受ければ受けるほど、伸びるからな」
「あは、永野サンのシュート、泣きながら受けてましたもんね」
練習のたび、健太は小谷にJ F L仕込みのシュートを数多く受けさせていた。まあ、怪我しない程度にだが。そしてキョンの言う通り、このメンバーの中では飛躍的に実力を伸ばしてきている。
キャッチングの基礎もしっかりと教えたが、何よりもコーチング、即ち味方への指示の大切さをことあるごとに伝えている。その効果が今日の試合でも満遍なく発揮され、数多くのピンチの芽をコーチングによって摘んでいる。
「それにしても… やはり、疲れが出てきましたか… だいぶ押し込まれてますね…」
「ああ。あと何分だ?」
「10分、です…」
健太は慶王ベンチを見る。想定外の展開にベンチも相当焦っている様子だ。
「キョン。見てごらん。アイツら相当焦っている」
「…ホントですね… あ、また選手交代… これで五人目ですよ。ますますスタミナに差が出てきちゃう…」
「そうかな。これだけ選手を弄ると、チームとしてマイナス面が出てくるもんだよ」
キョンは真剣な眼差しで、
「それって… 連携、とかですか?」
「うん。向こうは連携からの崩しを諦めて、スピード勝負に出たようだな。」
「スピード勝負… マズいっすよ、こっちはもうみんなクタクタですよ!」
「キョン。サッカーでスピードが生きる場面ってどこだい?」
「え… それは… 前方に広大なスペースがある時?」
健太はニッコリと笑顔で、
「その通り。だから相手のスピードを消すには?」
キョンはこんなに魅力的な授業をかつて受けた試しがない! 面白くて仕方ない様子で、
「D Fラインを下げて、相手のスペースを消す!」
健太は小さく拍手しながら、
「正解。トラー、ライン下げ気味。スペース消せ!」
トラが疲労困憊の表情で親指を掲げる。そしてF Wの茅野を一人前線に残し、両ウイングの小谷、平谷の一年生コンビも引き気味のポジションを指示する。
「狙いは… ショートカウンター。ですね」
「ああ。スピードを消された慶王は、あとはゴール前にロングボールを放り込んでくるしか手はない。ポゼッションを放棄して、ボールを放り込んでくる相手に最も有効な対抗策だ」
「あとは… そのチャンスを決め切れるか… 残り七分です」
引き分けは敗退を意味する。このグループリーグは一位のみ上位リーグに行くのである。引き分けでは勝点は並ぶが、得失点差で慶王の勝ち上がりとなるのだ。
蒲田南が勝ち上がるには、勝利の一択なのである。
今日も大勢の応援がグランドに来ている。同級生らしき生徒も何人か来ている。その誰もが拳を握りしめて千載一遇のチャンスを待ち続けている。
「慶王は知ってますけど。誰でしょうね」
「このメンツで慶王相手にここまでやらせるなんて。後でちょっと挨拶行くか?」
「ええそうしましょー ああ!」
グランドから鋭いホイッスルの音が響き渡る。
「かーー P Kかあ、あれ足掛かってねーだろーが」
「ネイマールより上手い演技でしたね… 主審が部活の先生じゃ、見分けつかないかー」
「…あの、赤髪。地元の有名なワルって言ってたよな?」
「…ですよね。でも…」
「ああ。不可解な判定受けたのに、あの態度…」
「本当のワルなら、主審に食って掛かるかぶっ飛ばすとか」
「なあ。なのにちゃんと判定を受け入れて、そして味方を鼓舞して…」
玉城は元々細い目を更に鋭くし、呟く。
「シム。これ慶王、外すぞ」
「えーー、流石にそれは…」
「蒲田のキーパーの顔、見てみろ。」
「… ニヤ笑いしてますね…」
「あの赤髪が声かけてからな。」
「でも、蹴るの新田でしょ、流石にー ああああ!」
「はっは、ほらなー、俺の言った通りだろーがコラ!」
玉城が何度も志村の肩を叩きながら、吠える。
「やば… 玉城さん、落ち着いて…」
「コラアー、蒲田―、切り替え遅えぞおー、周り見ろコラアー」
「ちょ、ちょっと玉城さん、みんな見てるって…」
「永野サン、なんか周りうるさいっすね」
キョンは不審な二人組の方を見ながら口を尖らせる。
「父兄じゃないな。どっかの偵察か、街クラブのスカウトじゃないか?」
「ですかね… どーでもいーけど… それより、今のはユーキくん、ナイスキーでした!」
「ああ。多分トラがあのキッカーの蹴る方向教えたんだと思う」
「ユーキくん。多分永野サンが来てから、一番伸びましたよね!」
「ああ。G Kはカテゴリーが上のシュートを受ければ受けるほど、伸びるからな」
「あは、永野サンのシュート、泣きながら受けてましたもんね」
練習のたび、健太は小谷にJ F L仕込みのシュートを数多く受けさせていた。まあ、怪我しない程度にだが。そしてキョンの言う通り、このメンバーの中では飛躍的に実力を伸ばしてきている。
キャッチングの基礎もしっかりと教えたが、何よりもコーチング、即ち味方への指示の大切さをことあるごとに伝えている。その効果が今日の試合でも満遍なく発揮され、数多くのピンチの芽をコーチングによって摘んでいる。
「それにしても… やはり、疲れが出てきましたか… だいぶ押し込まれてますね…」
「ああ。あと何分だ?」
「10分、です…」
健太は慶王ベンチを見る。想定外の展開にベンチも相当焦っている様子だ。
「キョン。見てごらん。アイツら相当焦っている」
「…ホントですね… あ、また選手交代… これで五人目ですよ。ますますスタミナに差が出てきちゃう…」
「そうかな。これだけ選手を弄ると、チームとしてマイナス面が出てくるもんだよ」
キョンは真剣な眼差しで、
「それって… 連携、とかですか?」
「うん。向こうは連携からの崩しを諦めて、スピード勝負に出たようだな。」
「スピード勝負… マズいっすよ、こっちはもうみんなクタクタですよ!」
「キョン。サッカーでスピードが生きる場面ってどこだい?」
「え… それは… 前方に広大なスペースがある時?」
健太はニッコリと笑顔で、
「その通り。だから相手のスピードを消すには?」
キョンはこんなに魅力的な授業をかつて受けた試しがない! 面白くて仕方ない様子で、
「D Fラインを下げて、相手のスペースを消す!」
健太は小さく拍手しながら、
「正解。トラー、ライン下げ気味。スペース消せ!」
トラが疲労困憊の表情で親指を掲げる。そしてF Wの茅野を一人前線に残し、両ウイングの小谷、平谷の一年生コンビも引き気味のポジションを指示する。
「狙いは… ショートカウンター。ですね」
「ああ。スピードを消された慶王は、あとはゴール前にロングボールを放り込んでくるしか手はない。ポゼッションを放棄して、ボールを放り込んでくる相手に最も有効な対抗策だ」
「あとは… そのチャンスを決め切れるか… 残り七分です」
引き分けは敗退を意味する。このグループリーグは一位のみ上位リーグに行くのである。引き分けでは勝点は並ぶが、得失点差で慶王の勝ち上がりとなるのだ。
蒲田南が勝ち上がるには、勝利の一択なのである。
今日も大勢の応援がグランドに来ている。同級生らしき生徒も何人か来ている。その誰もが拳を握りしめて千載一遇のチャンスを待ち続けている。