第1章 第15話
文字数 1,708文字
送られたマップ情報を辿りながら、健太は高橋の事を思い浮かべている。サッカー部で活躍していた健太に対し、高橋健太は所謂当時のツッパリグループに属していて、他校とよく喧嘩沙汰を起こしていた。そして、「深川のクイーン」とも仲良かった筈だ。
飲みながらクイーンの消息でも聞いてみるか、ひょっとしたら消息くらいは知っているかも知れない。なにしろ地元に残る率が異様に高いこの地域なので、又聞きの又聞きくらいであっさり分かるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、高橋の指定した『居酒屋 しまだ』に到着する。
外見は今流行の古民家風で、実に深川らしい居酒屋だ。高橋ってこんなセンス良かったっけ、と思いながら暖簾をくぐる。
「へい、っらっしゃい! お一人すか?」
かなり気合の入ったオバさんに挨拶され、若干腰が引ける。カウンターに座っていた中年の男が駆け寄ってくるー
「健太―、久しぶりー、元気だったかあー」
紛れもない、相当オッサン化した高橋健太だ。健太は笑いが止まらなくなり、
「ケンター、元気だったかー」
「ちょ、ちょっと紛らわしい。どっちかにしてよ」
と中年のオバさんが戸惑っているのが更に笑いを掻き立てる。
「それよか。健太、コイツ誰かわかるかー?」
と言って高橋がキッチンで調理している金髪の女性を指差す。
「いや… 誰?」
するとその金髪が顔を上げ、
「おい健太。アタシの事、忘れたのかコラ!」
と包丁を健太に向けながらニヤリと笑ったー
まさか…
金髪のポニーテール。背は低くだが細身のスタイルの良さ。鼻梁はスッと通り、切れ長の美しいアーモンド型の瞳。そのクイーンたる美しさは中学生の頃よりも光り輝いている!
高橋を見ると頷いている。そう言えば、この店の名前…
「クイーン、いや、島田、島田光子かあーーー!」
思わず健太は叫んでいた。
「おうよ! 生きてたか、ダブル健太の健太! 出来の良い方の健太!」
それはこっちの台詞だよ、心の中で叫んだつもりが言葉となり口から放たれていたー
「そーかー。そっちの健太は苦労したんだな、いや良く頑張った!」
来客の佳境が過ぎ、カウンターにダブル健太とクイーンがビールジョッキを抱えて並んでいる。なんでも地元の健太がこうやって嘗ての仲間に連絡し、無理矢理店に連れてくるのだという。昔から面倒見の良い男だったな、地元の健太は。
「お金持ちのお嬢か。ま、オマエに合ってなくは無い、かねえ」
「それより、パワハラはマズいだろうが。俺だって今時部下を怒鳴りつけたりしねえぞ」
「バーカ。今時の若いヤツは根性ねーんだよ。なあ、健太」
「ありがとなクイーン。そう言ってくれんのクイーンだけだわ」
「ったりまえよ。あ、勘定はちゃんと払ってけよ」
「大丈夫、ちゃんと金おろしてきたわ」
「しっかし。オマエ、中坊に助けられたって… オマエ割とケンカ強かったじゃねえかよ」
「どんだけ昔の話だよ。今はただの酔っ払いオヤジだっつーの」
「それはオレもだけどな。それより。さっきの話、コーチするかしないかって。どーすんだよ」
「それな。こんなオレがコーチ引き受けていいのかねえ。親は怒り狂うんじゃねえかな…」
クイーンがキッと向き直り、
「それはテメエ次第だろうが。テメエがキッチリガキの面倒見ますって気合入れんなら、親は文句言わねえよ。要は、オマエが覚悟決めたのかってコトだろ。違うか?」
何だろう、この正論。確かクイーンは中卒だった筈だ。なのにどうしてコイツはこんなに簡単に問題を端的に捉え、物事の核心を拾い上げることができるのだろう。
健太は思わず爆笑していた。似ている。クイーンとあゆみは、ソックリだ。
その事をクイーンに話すと、
「よし。今度連れて来い。酒飲ましてやる」
と上機嫌に言い放った。
そして。
覚悟は決めた。
酒の席であるが、覚悟は決めた。
スマホを取り出し、トラにメッセージを送る。
直ぐに既読が付き、返信が来る。
『頼むよ、コーチ』
絵文字もスタンプも無い単純な一文。だがそこにトラの切実な気持ちが入っている事を健太は気付いていた。
生まれ育った町に来て良かった。心底健太は思った。
門前仲町の夜は賑やかに更けていく。
飲みながらクイーンの消息でも聞いてみるか、ひょっとしたら消息くらいは知っているかも知れない。なにしろ地元に残る率が異様に高いこの地域なので、又聞きの又聞きくらいであっさり分かるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、高橋の指定した『居酒屋 しまだ』に到着する。
外見は今流行の古民家風で、実に深川らしい居酒屋だ。高橋ってこんなセンス良かったっけ、と思いながら暖簾をくぐる。
「へい、っらっしゃい! お一人すか?」
かなり気合の入ったオバさんに挨拶され、若干腰が引ける。カウンターに座っていた中年の男が駆け寄ってくるー
「健太―、久しぶりー、元気だったかあー」
紛れもない、相当オッサン化した高橋健太だ。健太は笑いが止まらなくなり、
「ケンター、元気だったかー」
「ちょ、ちょっと紛らわしい。どっちかにしてよ」
と中年のオバさんが戸惑っているのが更に笑いを掻き立てる。
「それよか。健太、コイツ誰かわかるかー?」
と言って高橋がキッチンで調理している金髪の女性を指差す。
「いや… 誰?」
するとその金髪が顔を上げ、
「おい健太。アタシの事、忘れたのかコラ!」
と包丁を健太に向けながらニヤリと笑ったー
まさか…
金髪のポニーテール。背は低くだが細身のスタイルの良さ。鼻梁はスッと通り、切れ長の美しいアーモンド型の瞳。そのクイーンたる美しさは中学生の頃よりも光り輝いている!
高橋を見ると頷いている。そう言えば、この店の名前…
「クイーン、いや、島田、島田光子かあーーー!」
思わず健太は叫んでいた。
「おうよ! 生きてたか、ダブル健太の健太! 出来の良い方の健太!」
それはこっちの台詞だよ、心の中で叫んだつもりが言葉となり口から放たれていたー
「そーかー。そっちの健太は苦労したんだな、いや良く頑張った!」
来客の佳境が過ぎ、カウンターにダブル健太とクイーンがビールジョッキを抱えて並んでいる。なんでも地元の健太がこうやって嘗ての仲間に連絡し、無理矢理店に連れてくるのだという。昔から面倒見の良い男だったな、地元の健太は。
「お金持ちのお嬢か。ま、オマエに合ってなくは無い、かねえ」
「それより、パワハラはマズいだろうが。俺だって今時部下を怒鳴りつけたりしねえぞ」
「バーカ。今時の若いヤツは根性ねーんだよ。なあ、健太」
「ありがとなクイーン。そう言ってくれんのクイーンだけだわ」
「ったりまえよ。あ、勘定はちゃんと払ってけよ」
「大丈夫、ちゃんと金おろしてきたわ」
「しっかし。オマエ、中坊に助けられたって… オマエ割とケンカ強かったじゃねえかよ」
「どんだけ昔の話だよ。今はただの酔っ払いオヤジだっつーの」
「それはオレもだけどな。それより。さっきの話、コーチするかしないかって。どーすんだよ」
「それな。こんなオレがコーチ引き受けていいのかねえ。親は怒り狂うんじゃねえかな…」
クイーンがキッと向き直り、
「それはテメエ次第だろうが。テメエがキッチリガキの面倒見ますって気合入れんなら、親は文句言わねえよ。要は、オマエが覚悟決めたのかってコトだろ。違うか?」
何だろう、この正論。確かクイーンは中卒だった筈だ。なのにどうしてコイツはこんなに簡単に問題を端的に捉え、物事の核心を拾い上げることができるのだろう。
健太は思わず爆笑していた。似ている。クイーンとあゆみは、ソックリだ。
その事をクイーンに話すと、
「よし。今度連れて来い。酒飲ましてやる」
と上機嫌に言い放った。
そして。
覚悟は決めた。
酒の席であるが、覚悟は決めた。
スマホを取り出し、トラにメッセージを送る。
直ぐに既読が付き、返信が来る。
『頼むよ、コーチ』
絵文字もスタンプも無い単純な一文。だがそこにトラの切実な気持ちが入っている事を健太は気付いていた。
生まれ育った町に来て良かった。心底健太は思った。
門前仲町の夜は賑やかに更けていく。