第2章 第12話

文字数 1,415文字

 それから二分後。コータ、サワをはじめとする面々がカフェに上がってきた。

「あかねちゃん。ごめーん!」
「マジ感動。いい。それメチャいい!」
「流石、トラの嫁!」

 トラとあかねの周りに人だかりができる。

「あれ、みんな… 何で?」
 未だに状況が掴めていないあかねを無視して、
「そーだよな。やっぱ、勝ちてえよな…」
 とトラが呟く様に言うと、皆が深く頷く。

「よし。ユーキ、それぞれのガッコの偵察を振り分けてくれ」
 トラに無茶振りされた小谷が、
「っしゃ。やりますか。じゃ、ちょっと待ってー」
 と言い、スマホで中体連のH Pを見つけ出し、対戦相手を調べる。

「っちゃー… つえートコばっかじゃん… マジかー。でも、まいっか。よーし、先ず初戦の相手―、品川区立大井三中、これは俺と木崎、飯森なー」
「「りょーです」」
「二回戦… 千代田区立番町中―、これはサワと岡谷、大町なー」
「「ほーい」」
「んで。三回戦…ウッソ! 港区の慶王中等部だってよ…」

 あかねはビックリして、
「え? ウチの男子部と? え? どうして? ここ大田区だよね?」
「ああ、中体連って、支部ごとに分かれてんのよ。大田区はさ、品川区、港区、千代田区、あと大島とかの島嶼地。そん中でやるんだわ」
「そうなんだ… でもよりによって…」
「あかねちゃん、サッカー部で知ってる奴いる?」
「いない。私は中学から入ったから。でも初等部の子達は何か知ってるかも。学校で聞いてみるよ。」
「サンキュ。確か、去年のトレセン入ってる奴いたんだよな。調べておいてくれると助かるわ」
「トレセン?」
「そ。地区ごとの選抜選手。メチャ上手いってこと。」
「ちなみに、トラくん…」
 下級生がクスクス笑い出す。
「アレさえなければ、トレセン入ってたんだよねー」
「おいおい。それを言うんじゃないよ。本人も深く反省してんだから」
 アレのきっかけとなった、岡谷が泣きそうな顔になり、
「ほんっとすんませんっした… 俺のためにトラくん…」
 トラはニッコリ笑いながら立ち上がり、岡谷の頭をクチャクチャにしながら、
「気にすんな。よーし。じゃ今からバラけるか。オレと茅野が慶王な。…須坂、練習場所知ってっか?」
「ちょっと待って。」

 あかねはクラスメートに連絡を取る。すぐに既読が付き、何回かやりとりした後、
「うん、わかった。ウチの大学の敷地内らしいわ。麻布の慶王大グランドだって。」
「よっしゃ。見に行くぞ茅野。オマエ、ググって場所調べろ」
「ウイーっす。行きますか」

 …あかねは呆然と立ち尽くし、
「ちょ…、何私を置いて行こうとしているのかしら…」
「は? オメーカンケーねーじゃん。ってか、むしろ敵じゃん」
「は? 男子部とは縁もゆかりもないのですが何か?」
 トラが茅野を見ると、茅野はニヤニヤ笑いながら、
「トラくん、あかね姐さんに連れて行ってもらいましょうよ。それがスジってやつじゃないですかー」
「そ、そんなもんか…?」
「「「「そんなもんですから」」」」

 そして渋々、いや内心ドキマギしながら、
「そっか。じゃ行くか」
 とプイッと背を向けて出口に歩き出したものだから、あかねを除く皆は笑いを堪えるのに必死だったものだ。

 中二の女子三人組である、もえ、りんりん、キョンは深く溜息をつきながら、
「ねーさん。仕方ねーから、トラ君のこと頼みましたよ。」
 とあかねを送り出したのだった。ただ一人、キョンだけは二人の後ろ姿を睨み付けていたことには誰も気づかなかった…
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